2018年12月16日(日曜日)
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【論説】中国警戒で進む北方領土交渉のリスクとリターン

※イメージ画像

 
安倍首相とプーチン露大統領が11月14日、今後3年以内の平和条約締結を目指すことで合意した。
 
外遊先のシンガポールでプーチン氏と会談した安倍首相は次のように語った。「領土問題を解決して平和条約を締結する。戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で、必ずや終止符を打つという強い意志を大統領と完全に共有した。そして、1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させることでプーチン大統領と合意した」
 
安倍首相が語った1956年の日ソ共同宣言では、「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」と記されている。
 
すなわち、今後3年以内にまずは平和条約を締結した後で、2島返還を目指すということである。但し、単純に2島返還で両国が合意できるわけではなく、残り2島の国後・択捉の返還交渉やビザなし交流の可否、ロシアが警戒する米軍基地設置の是非……など、解決すべき課題は少なくない。歯舞・色丹に米軍基地が設置されないと確約すれば、日米地位協定での「米国は日本のどこにでも基地を置くことを求められる」との解釈変更が必要になり、対米関係に軋みが生じる可能性がある。
 
領土は国家の土台である。その増減や侵略行為は近代戦争の主因になってきた。それだけ、双方の愛国心を強烈に刺激する問題である。日本の立場からすれば、日ソ中立条約を一方的に破って終戦時のどさくさに奪われたという被害感情が非常に強い。一方のソ連の立場に立てば、1945年4月5日に条約を延長しない方針を伝え、戦後しばらく日本から抗議がなかった点や、米英との間で結んだヤルタ会談によって対日参戦する条件として千島列島のソ連帰属が約束されており、国際的に有効であるとの確信がある。
 
日本の外交戦略として、ソ連を引き継いだロシアという国が今後、大国の地位から滑り落ち、経済問題で日本の助けがどうしても必要になるなど、日本に主導権がもたらされる事態が想定されるのならば、拙速に決めるのは愚策かもしれない。
 
しかし、大国ロシアは将来、プーチン政権が終わりを迎えた後も世界一広大な大陸国家として領土の野心を捨てることも、大国の地位を滑る見込みもない。逆に、日本は中国の領土的野心を益々意識せざるを得ない近未来が待ち構えている。
 
尖閣諸島の脅威だけでなく、水資源豊かな北海道などの土地が中国系の企業に買い占められ、国内には大学構内に諜報活動も行っているのではないかと危惧される孔子学院が増えている。南シナ海、そして尖閣の次には石垣、宮古島、沖縄と、自らの海域を広げようと狙っていることは明白である。その時、中国は竹島を占領している韓国や、北方領土問題を抱えるロシアに共闘を持ちかけることだろう。
 
韓国の反日姿勢は明白であり、この申し出に三顧の礼で応えると予想される。問題はロシアだ。ロシアは良い意味でも悪い意味でも、冷徹な国家である。自国に有利と見る側に付く。かつてないホットラインが築かれている安倍・プーチン間で領土問題に着地点を見出し平和条約を結んでおけば、対中・対韓の領土問題でロシアからの圧力を受けるリスクが低減し、地政学的な外交で有利に働く。
 
安倍首相が『地球儀を俯瞰する外交』を続け、対中包囲網を敷いてきたのも、こうした近未来の有事を憂慮しての合従連衡作戦と考えていいだろう。G0(ジーゼロ)といわれる圧倒的ナンバー1のいない現代、日本も米国だけに頼れる時代ではない。一番の脅威となる可能性が高い中国や朝鮮半島に対して、日本は今のうちに備えをしておかなければならない。
 
とはいえ、ロシアはどこまでも冷徹な国である。歩み寄った安倍首相に平和条約だけを締結し、2島返還の口約束は果たされないリスクは相当に高い。それをどうやって担保するか。更には、北方4島にこれ以上中国や韓国の資本を投下させない手立てを講じる必要もある。
 
魑魅魍魎だらけの東アジアで、大宰相の域に入った安倍首相の手腕だけが、我が国の頼みの綱である。拉致問題解決や憲法改正と同様、北方領土問題の帰趨次第で首相の歴史的評価も大きく上下するに違いない。