2018年10月19日(金曜日)
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【論説】理不尽と戦い続ける総理大臣の孤独

東方経済フォーラムでスピーチする安倍首相(12日、ウラジオストクで)

 
総理大臣というのは、かくも割に合わない仕事かなとつくづく思う。
 
9月12日、東方経済フォーラムが行われたロシアのウラジオストクで、プーチン大統領は「今思い付いた」と言いながら「年内に前提条件を付けずに平和条約を締結しよう」と安倍首相に提案した。突然の呼びかけに安倍首相は苦笑まじりの表情を見せるしかなかった。
 
プーチン氏は2日前の首脳会談で2時間40分の遅刻をしている。「うっかりしていた」というレベルの遅刻ではない。映画一本をエンドロールまできっちりと見終わるほどの、半日近い時間である。2016年12月に安倍首相の故郷・山口で行われた会談時と全く同じ遅刻時間である。今年5月と7月にモスクワで行われた会談でもそれぞれ50分の遅刻をしている。
 
毎回の遅刻に加えて、会談内容をちゃぶ台返しにするような一方的な領土問題の棚上げ案。北方領土返還の意思を示すのではなく、相手に譲歩を求める一方的な提案。領土拡張の野心を隠さないロシアらしい尊大さだが、真面目に考えれば実に腹立たしい非礼の数々である。
 
おまけに、11日からロシアは兵力30万人を動員して中国やモンゴルと共に日本海やオホーツク海を舞台にした軍事演習を始めている。産経新聞は、この軍事演習についてはっきりと抗議すべきだったと社説で述べている。
 
一番腹立たしい思いをしているに違いない安倍首相が、プーチン氏との関係重視から我慢し、安倍政権に好意的なはずのマスコミからもなぜ抗議しないのかと責められる。ストレスは溜まる一方だろう。
 
国内に戻れば、20日投開票が行われた総裁選で、石破茂氏の表層的な政策論に苛立ちを隠せない場面が、討論会の中で何度か垣間見られた。具体的な経済政策も示さないままに「10年で所得を3割伸ばす」などと大言壮語する石破氏のいい加減な口約束は、画面越しに見ている国民としても腹立たしさを感じずにいられなかった。
 
国民を無知蒙昧な愚民とみて、空手形を大盤振る舞いすれば自身の支持が上がると当てこんでいるのであれば許せない傲慢さであるが、隣りでこの虚言を何度も聴き続けなければいけない安倍首相のもどかしさは、如何ばかりであっただろうか。
 
まともに相手をすれば、精神的に身がもたないストレスの連続である。論戦の場で、沽券に関わる指摘があれば安倍首相も色をなして反論することもある。だが、森友問題では「私や妻が関わっていたのであれば首相を辞める」と野党に言質を与えたことが追及を長期化させた一因にもなった。
 
相手が傲慢、狡猾、非礼であるほど、腹立たしさも募る。であればこそ、相手のレベルを見極め、どんな愚劣な提案や意見でも、あらかじめ想定問答しておくことが精神衛生上の健全さを保つ備えとなるだろう。
 
更には、相手の立場に立って違う角度で見ることも大切である。自分が大国ロシアの大統領だったら、きっと僅かな弱みも見せたくないに違いない。自分が石破氏だったら、政治生命をかけた勝負だからどんな挑発があっても不思議ではない。
 
未来に先回りして、怒っていたかもしれない自分を俯瞰してみる。起こり得る未来を想定しておけば、少なくとも想定内の出来事に対しては冷静に受け答えすることもできるだろう。バカな発言に対して、皮肉を込めたユーモアを即興で返せるようになれば、カウンター攻撃となり、相手に倍返しのダメージを与えることもできる。
 
首相には未来予測の能力と強い自制心、そして孤独に耐え得る信念が欠かせない。