2017年12月18日(月曜日)
ようこそ、ゲストさん。有料記事を見るにはログインが必要です。
 
 
ログイン情報を記憶

システム復旧致しました。

天皇御製に学ぶ 第四回 雄略天皇御製に歌はれた國體精神 四宮正貴

天皇御製に学ぶ 第四回 雄略天皇御製に歌はれた國體精神 四宮正貴

泊瀬朝倉宮御宇天皇代(はつせのあさくらのみやにあめのしたしろしめしし すめらみことのみよ)

天皇御製歌(すめらみことのよみませるおほみうた)

籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この丘に 菜摘ます兒 家聞かな 名告らさね そらみつ やまとの國は おしなべて 吾こそをれ しきなべて 吾こそませ 我こそは 告らめ 家をも名をも

〈通釈〉「籠よ。籠よ。その籠やふぐしを持って、菜を摘んでおいでの娘よ。家をおっしゃい。名をおっしゃい。この大和の國は、この私がすっかり従へてゐる。この私が治め従へてゐるのです。私から先に言はうよ。私の家も、それから名も。この上はお前も、家をおっしゃい。名をおっしゃい。」

 第二十一代・雄略天皇は、允恭天皇の第五皇子。治世二十三年。「倭五王」(宋書倭国伝)の「武」に比定される。

 「泊瀬朝倉宮」は、雄略天皇の宮廷の御名。奈良県桜井市。桜井から初瀬に出る道の中間辺りの、初瀬川に沿った山峡の平地である。泊瀬峡谷の朝倉の地にあった御所の名。冬暖かく夏涼しい豊かな丘の上に宮殿があったといふ。三輪山の東、初瀬山の西南である。

 この御製は、雄略天皇が御遊行された時に、地方の娘につまどひ=求婚されたお歌である。
では何故「相聞歌」に分類されず、「雑歌」に入ってゐるのであらうか。『萬葉集』が、天皇國日本を讃嘆し、天皇の御世が永遠に続くことを寿ぐための歌集であるからである。

 保田與重郎氏は、「萬葉集開巻第一に、雄略天皇の御製を掲げ奉ったのは、當時の國民的な歴史觀をふまへて、己自らの志を示されたものである。…雄略天皇は國のうちで偉大な御稜威を發揮されたばかりか、當時の國際的にも有力な帝王として畏怖されてをられた。上古の世界觀念から見て、劃期の時代がこの天皇の御代であった。」「文藝の中でも詩歌は、感情の直接に流露したもので、人のした行爲を語ったり、記録されたものの中では、最も直接的で、飾り氣なく、正しく、その作者の真實の傳へられるものである。かつ古の詩歌は、人の口から口へ傳へられたゆゑに、人を感動させぬ詩歌は、たやすく忘れられるのである。雄略天皇は優れて天真爛漫の御詩人であらせられた。」(『萬葉集名歌選釋』)と論じてゐる。

 この御製で注目しなければならないのは、天皇が「摘ます」と仰せになってゐることである。「摘ます」は、摘むの敬語である。民の娘に対して敬語が使はれたのは、古代は農業の労働が重んじられたから、その労働に従事をする人をいたはり、ねぎらふ気持ちでいはれたからである。農業は神聖な労働とされてゐたから、天子様も相手を尊んだ物言ひをされた。

 古代日本の女性たちは、豪族・貴族の娘でも、後世のやうに奥深くこもってゐたのではなく、野遊びに出た趣がある上、時を限って貴賎の区別なく、共同労役をしたこともあるから、菜を摘んでゐても、庶民の娘とは決められない。かういふ折にこそ、平生見ることのできない豪族や貴族の娘を見ることができたのかも知れない。山野で菜を摘んでゐるから庶民の娘だと考へるのは、近代的考へである。

 天子の御製の中に登場するのだから、神聖なる娘か豪族の娘といふ可能性もあると。天子が、地方の豪族の娘あるいは地方の巫女と結婚されると、その豪族の支配する地方國の威力の中心たる神すなはち國津神・國魂を天子が迎へることとなり、天子の國家統治の範囲が広がり強くなったといふ。
「名告らさね」のサネのサは敬相をつくる語尾。ネは命令・希望の意を表す接尾語。

 言靈信仰の盛んであった時代には、人の「名」も人格の一部と考へてゐた。ある人の「名」を知ることは、その人の全人格生命を左右する力を得た。何処の家の何といふ「名」の人かを知らうとすることは、相手を自分の思ふ通りにしやうとすることであった。

 だから、他人に「名」を知られるのを忌んだ。他人として女の「名」を知る者は、夫に限られた。「名」を知られた場合には、その人を夫としなければならない風習が、「名乗り」の根本思想である。だから、「名」のみならず、その娘がどこの家の娘かも容易に明かさなかった。戦場で武士が名乗りをあげるのも重要な風習であった。

 他人に「名」が知られた時には、その知った人には許婚しなければならなかった。男性は結婚の承諾を得るには、相手の女性の「名」を問ひ出す必要があった。「名」を聞くことが結婚の成立であった。

※記事の続きは有料会員制サービスとなります。

会員の方でコンテンツが表示されない場合は会費のお支払いが完了していないか、有効期限をご確認ください。