2018年12月16日(日曜日)
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棄民国家 野伏 翔

メキシコ国境に集結した難民をアメリカに入国させまいとトランプ政権は国境に州兵を配備、緊張状態が続いている。アメリカに向けて黙々と行進を続ける難民たちの中には、おそらくは犯罪者も交じっており、確かに哀れさの中に不気味な予感も感じられる。
近年ドイツ、フランス、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国が被っている難民被害を見れば、トランプの心配も彼を支持するアメリカ国民の不安も理解はできる。
2015年から「欧州難民危機」と呼ばれるようになったヨーロッパの惨状は確かに深刻である。花の都パリもすでに昔日の面影はなく、難民キャンプが立ち並び、中東とアフリカからの難民が繰り返す暴動と強姦事件の多発する危険地帯となっている。
 
フランスのルペンやオランダのウィルダースに代表される所謂極右と呼ばれる勢力の台頭の原因は、経済のグローバリズムなどへの反発以上に、普通のヨーロッパ人たちの異民族、異宗教、異風俗への皮膚感覚的反応であり、犯罪から身を守る防衛本能としての必然と見るべきであろう。
 
だが、一方で難民が生ずるところ「棄民」のあることにも目を向けるべきである。難民問題に一番責任のあるのは難民でもその難民を受け入れた先進国でもなく、難民を出した国、自国民を救おうとしない国にこそ非難の目は向けられるべきではないだろうか。
 
「棄民」とは嫌な言葉である。だがかつて日本にもそれはあった。
昭和20年月9日8日、日本では長崎に原爆が投下された日に、ドイツに勝利したソビエト軍は、1941年に締結した日ソ中立条約を一方的に破り、満州への進攻を開始した。その兵員の数170万人。戦車と飛行機それぞれ5000を擁する大機動部隊である。
満州で対ソ連を警戒していた関東軍は、ソ連との中立条約を信じ南方にその主力を移していたため、このソ連の大群に太刀打ちできる筈も無かった。在満州日本人の殆どは夫が招集されたため留守を守る女、子供、60歳以上の老人ばかりであった。比較的南に位置する首都新京に住む日本人たちは「疎開」と称して無蓋列車に折り重なるように積まれて満州を逃れ朝鮮に入った。
当時の人たちにとって満州は独立国であるが、朝鮮は日本。と思い必死の思いで朝鮮に逃げて来たのだ。しかしこれが間違いだった。
昨日までの同胞朝鮮人の殆どは手のひらを返したように避難民となった日本人に石を投げ、少ない所持金をだまし取り、罵声と暴行を加えた。シラミとノミに悩まされ、飢えによる栄養失調とマラリアで多くの日本人が命を失った。北朝鮮の冬の寒さは零下20度に達する。暖を摂るためのマキも分けてもらえず、生木しか与えらなかった日本人は次々と凍死していった。米ソの対立で38度線から南に行くことができなくなった満州から北朝鮮への避難民は「疎開者」から「避難民」に、そして「難民」となった。その数150万人。うち30万人以上が当地で命を落としている。
その当時日本政府はポツダム宣言に従い軍人軍属の内地への帰還には力を尽くしたが、この満州朝鮮からの引揚者に手を差し伸べることはなかった。それどころか、引き揚げ船の不足、空襲被害による住宅の不足、食糧の不足という理由で、これら難民の現地定着方針が打ち出された。その後予想される戦時賠償の一部を、この難民たちの労働力で支払う案まで検討されたと言う。
かくして満州朝鮮からの引揚希望者「難民」は日本政府からの「棄民」となった。
 
そこで思い浮かぶのが、1960年代を中心に盛んであった北朝鮮への所謂「帰国事業」により二度と日本に帰れなくなっている日本人妻たちへの、政府のそしてマスコミの冷たい対応である。
当時「地上の楽園北朝鮮」への帰国事業には朝鮮総連の説得は勿論、日本政府も北朝鮮親派である野党もマスコミも、日本中がことごとくが諸手をげて賛成し在日朝鮮人の帰国を煽った。その結果十万人近い在日朝鮮人と、その日本人妻1831人が地獄の収容所国家に幽閉されてしまったことは、その後の情報や脱北者たちの証言で明らかである。
日本人妻の国籍は日本である。日本人である彼女たちは筆舌に尽くしがたい差別と虐めに遭い、未だに誰一人日本への帰国を許されていない。だが日本政府は何の手も打っていない。彼女たちを自業自得と言う者がいるが、帰国事業を煽り北朝鮮を賛美した政府とマスコミの責任は大きい。だがそのマスコミも政府も勿論野党も、事実上彼女たち日本人妻を見殺しにしている。
 
もう一つは北朝鮮による拉致被害者への政府の長きに亘る放置,無視の歴史である。
1977年石川県で起きた宇出津事件、久米裕(52)さんが北朝鮮に拉致された。不信を感じた旅館の女将の通報を受けた警察は、未だ旅館に残っていた在日朝鮮人の男を外国人登録法違反で逮捕し、久米さんを拉致し工作員に引き渡したとの自供をとった。しかし政府もマスコミも動かなかった。
1988年には参議院の予算委員会で、国家公安委員長であった梶山静六氏から北朝鮮による拉致を認める正式な答弁があった。にもかかわらず政府もマスコミも2002年小泉訪朝時に金正日本人の口から拉致のあった事実が語られるまでは、拉致はあくまでも疑惑と言い続けた。
大韓航空機爆破事件の実行犯金賢姫(キムヒョンヒ)の証言で田口八重子さんの拉致が確定と見えても「飲み屋の女一人のために日朝国交回復を遅らせるわけにはいかない」と言った不届き者が政界にも官僚にもいた。
 
今喫緊の課題に「入管法改正」がある。日本が事実上の「移民国家」になってしまうのではないかと危惧される。
大量移民による社会の乱れ、犯罪の増加、国家民族のアイデンティティーの崩壊はヨーロッパ諸国の顕著な実例がある。にもかかわらず移民を増やそうと言う考えは、目の前の刹那的な経済利益だけに目を奪われ、社会や他人、同胞に対する思いやりが欠けていることは明らかである。同胞を見捨てる「棄民国家」はやがて「移民国家」となり衰退と崩壊の道をたどるのではないかと危惧される。
 
「義を見てせざるは勇無きなり!」むき出しの欲望と卑劣な策略、嘘と脅しばかりがまかり通るこの東アジアに於いて、日本だけはものの憐れを知り、同義を貫く国でなくてはならない。さもなくば、世界は闇だ。