2018年11月17日(土曜日)
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【なるほど納得政経塾㉙ 】 「チェルノブイリと福島の原発事故」   神奈川大学経済学部教授 経済学博士 小山和伸

 INES(International Nuclear and Radiological Event Scale) レベルでは、重大事故を示すレベル7に位置づけされるチェルノブイリと福島だが、その実態はどのようなものなのか、以下具体的な数値で比較確認してみることにしよう。
  
この件に関する限り、日本語の文献や日本語に翻訳されたデータの殆どは、反原発派の恣意的な改竄や主張が多く混入しており信頼に値しない。以下は、‘‘Comparison of Fukushima and Chernobyl nuclear accidents’’(WIKIPEDIA)に基づく比較データである。同データは、IAEA等の国際機関発表のデータに基づいており、信頼できるものと考えられる。
 
まず、放出された放射能の量については、チェルノブイリが5,200PBq(ペタベクレル)であるのに対して、福島は340-800PBqである。放射能汚染の影響域については、福島においては北西域60km南部および南西方面40kmであるのに対して、チェルノブイリでは500km以上と報告されている。
 
さらに端的な数値は、事故による被曝死者の数である。チェルノブイリにおける急性被曝症による死者は、28名である。その他外傷による即死者2名、消火活動中のヘリコプター事故による死者4名、事故から19年後の2005年までに被曝による甲状腺癌による死者が15名報告されている。
 
これに対して、福島原発事故による死者はゼロである。今後被曝による甲状腺癌の発症がどうなるかは、時間の経過がないとはっきりしない点もあるが、放射能の排出規模や被曝の程度からすれば、放射能による甲状腺癌の発症は到底考えられないことである。
 
これほどの差異があるチェルノブイリ原発事故と福島原発の事故が、INESレベルで同じレベル7となっているのは、いかにもおかしな話である。それは、重大事故を示す基準に7より以上が無いからに他ならない。分かりやすく例えれば、100kgまでしか目盛りのない体重計に乗れば、体重が100kgの人も300kgの人も、同じ100kgと表示されるのと同じことである。さらに、原発反対の政治的勢力が、「チェルノブイリと同断」とか「チェルノブイリ以上」などという科学的根拠のない風評を振りまいている現実がある。
 
現在福島原発事故をめぐって、東電責任者等の裁判が行われているが、GE製のMark1型原子炉に関して事故の20年も前に提案されていた改善策を無視したことこそが、問われるべき最大の責任問題である。事故後に産経新聞の記事にもなったが、改善提案をしていたのは、元IAEA事務次長のブルーノ・ペロード氏である。
 
改善提案の要旨は、以下の4点である。第一に、海に近い立地を考慮して高波による浸水に備えるため、高台に代替電源を設けること。第二に、マーク1型の圧力容器と格納容器が近接している欠点を補うために、建屋の構造を補強すべきこと。第三に、水素ガス発生に備えて、酸素を放出してH2Oにしてガス圧を下げる装置を完備すべきこと。第四には、建屋内に放射能に汚染された水素ガスが充満した際の備えとして、除染装置付の換気扇を完備すべきことである。
 
もし、これらの提案のうち第一の提案だけでも取り入れていれば、あのような不面目きわまりない惨事は起こらなかったはずである。すなわち、原発事故に備える合理的な対処法は、明確に存在していたし、今も存在している。その合理的対処に背中を向けて、原発の将来構想を根こそぎ放棄するような権利を、未来世代への責任からして、現代世代は持ちあわせてはいない。
 
ペロード氏は、提案を全て無視した東電について「神の如く尊大であった」と述懐している。確かにその通りに違いない。ただ、「原発は100%安全なのか?!」と迫る世論が、一度竣工した原発設備の改善への非合理的で感情的な足かせになっていた面もあるのかも知れない。そうだとすれば、不合理かつ非科学的な、エキセントリックで厳格無比な日本の反原発世論と反核感情こそが、今回の事故の真犯人ということになりはしないであろうか。