2018年10月19日(金曜日)
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【台湾は日本の生命線】 ―中国の圧力と闘う2020東京五輪「台湾正名」運動の現況- 台湾研究フォーラム 会長 永山英樹

■台湾正名の国民投票は実施の見通し
 
中国の政治的圧力を受け入れた国際五輪委員会(IOC)の規定により、東京五輪でも「チャイニーズ・タイペイ」(中国台北)が台湾選手団の名称(=台湾の五輪委員会の名称)として使用されることになる。そこでそれを「台湾」に改めようと訴えるのが、目下日本と台湾で展開中の2020東京五輪台湾正名運動である。
 
当初は両国ともに東京都議会への請願署名活動を進めていたが、その後台湾側が一気に運動を拡大させた。台湾名での東京五輪への参加申請に関する公民投票(国民投票)を十一月二十四日の統一地方選挙と同時に実施させようと、投票立案のための署名集めを開始したのだ。
 
旗振り役はメキシコ五輪の女子陸上メダリストで、国民的英雄の紀政女史。ローマ、東京、メキシコと三つの五輪に出場しているが、そのいずれも台湾は「台湾」の名で参加しており、再びその名称を回復させてほしいとの思いが彼女にはある。
 
署名数は全有権者数の一・五パーセントに当たる約二十八万人を超えなくてはならない。そこで期限を八月末に設け、全国各地で署名活動が行われ、九月三日に集められた署名が中央選挙委員会に提出された。その数、実に約五十二万筆。かくして公民投票は実施される見通しとなったのだが…。
 
これに全く穏やかでいられないのが、中国なのである。
 
■中国が台湾正名運動を恐れる理由
 
台湾への侵略、併呑を正当化するため、中国が日夜展開するのが「一つの中国」なるプロパガンダだが、「チャイニーズ・タイペイ」もまた、その虚構宣伝がもたらした虚構の名称なのである。IOCが不当にもこのような名を台湾に強要するのも、その中国の政治的圧力に屈しているからに他ならない。
 
ところがそうした状況の中で東京五輪台湾正名運動が開始されたのである。台湾は台湾であり、中国の一部ではないと、「一つの台湾・一つの中国」の現状を強調し、「一つの中国」がフィクションであることを国際社会に暴かんとする運動だから、中国の宣伝工作(覇権主義政策を正当化するための大きな支柱だ)から見れば相当大きな脅威なのだろう。昨年一月に我々日本の民間が東京で請願署名活動の開始を宣言した直後から、中国政府内で台湾工作を司る国務院台湾事務弁公室(国台弁)は批判のコメントを発表している。
 
そして今回、いよいよ公民投票まで行われそうなのだ。このままでは国際社会の関心が「一つの台湾・一つの中国」との真実に向かいかねず、あの国は相当狼狽しているはずである。
 
■中国の妨害と民進党政権の弱腰
 
それは国台弁の報道官が九月十二日の定例会見で見せた、以下の発言からもわかる。台湾側を恫喝、牽制したいのだろう。大変な騒ぎようだ。
 
―――IOCは台湾の五輪参加に関し明確な規定を持つ。五輪委方式は国際スポーツ組織と両岸(※台湾と中国)のスポーツ界が共に遵守すべき原則である。
 
―――島内(※台湾国内)のごく少数の台独分裂勢力は、民進党当局による支持、放任により、IOCや東亜五輪委員会の厳正なる警告をも顧みず、独断専行でますます猛々しく五輪正名公民投票を推進するが、最終的には台湾のスポーツ健児の競技参加の機会と台湾同胞の利益、福祉を犠牲にするだけである。
 
このように、もし台湾が台湾正名を目指せばIOCの規定に違反することになり、台湾の選手は競技に参加できなくなるぞ、と脅しているのである。
 
そして、単に脅すだけではない。台湾国内の親中勢力に対しても呼応を求めている。
 
それはどんな勢力かと言えば、「台湾」より「チャイナ」の名を好み、「台湾の自主」よりも「中国への従属」の道を選ぶような、国民党や同党系メディアなど、中華民族主義の政治勢力といったところだ。
 
この報道官の発言の中で、「台独分裂勢力」との言葉が見える。それは台湾海峡の緊張を高めるトラブルメーカーども、といった意味で、今回の公民投票を推進する民間グループを指しているのだが、報道官はこのトラブルメーカーの「勢力」を、「民進党当局」が「支持、放任」していると譴責しているではないか。
 
中国はこのようにして反台湾独立、反民進党の親中戦力に対し、公民投票ボイコットのキャンペーンを張れと呼びかけたのだ。
 
民進党の戸惑う顔が目に浮かぶ。たしかにあの党の党員や支持者の多くは、台湾正名には賛成だろう。しかし民進党政権自体は、中国との間で緊張が高まるのを嫌い、台湾正名の公民投票に反対なのだ。
 
実際には明確な反対表明はしていないが、しかし台湾代表選手の五輪出場権が最優先だなどとし、公民投票立案の署名活動を牽制しつづけている。要するに「台湾のスポーツ健児の競技参加の機会を犠牲にする」といった中国の宣伝と同じことを言ってきたのだ。
 
とんだデマである。台湾国内で台湾正名に関する公民投票が行われただけで、あるいは投票が成立し、それに基づき台湾政府が台湾正名を申請しただけで、IOCは直ちに台湾を五輪から締め出すだろうか。
 
しかし民進党政権にとり、実際のところなどどうでもよく、ただ中国から「台独分裂勢力」と呼ばれるのだけを警戒しているようにみえる。
 
■IOCの台湾に対する不可解な警告
 
報道官の発言でもう一つ注目したいのは、「台独分裂勢力」が「IOCや東亜五輪委員会の厳正なる警告をも顧み」ないと批判する部分だ。
 
いったいこれまで、どんな「警告」があったのだろうか。
 
先ずIOCによる「警告」だが、それはバッハ会長が五月、チャイニーズ・タイペイ五輪委員会(CTOC)へ送付した書簡のことである。
 
そこには「五月二日の執行理事会で、台湾の改称は許可しないと決議された」とあった。
 
不可解な書簡=警告と言えた。当時台湾では民間で公民投票の推進運動が始まった直後ではあったが、台湾政府もCTOCも台湾正名の許可申請など一切行っていないにもかかわらず、なぜ突然こうした通知が届いたのか。
 
明らかにその目的は、公民投票の推進運動への牽制であり、不当な政治的圧力と言えた。
 
そのためCTOCは「公民投票は民主主義社会の正常な活動。民間が推進しているだけで政府が始めたものでもなく、CTOCも関与していない」と釈明したのだが、実はIOCにこうした書簡を書かしめたのは、そのCTOCの元国際部長である姚元潮という人物であることが後日判明した。
 
■台湾の「売国奴」がバッハ会長に書簡
 
姚元潮は中国系の退役将校で、今や習近平にシンパシーを抱く典型的な台湾の中華民族主義者だ。公民投票を阻止すべく、バッハ会長に反対表明させようと思い立ち、手紙を送って次のように伝えていたのだ。
 
「四月四日の報道によれば、中華民国中央選挙委員会は陸上のスター選手だった紀政女史が提出した東京五輪台湾正名に関する公民投票の発案を受理した」
 
「この公民投票は明らかに政治のスポーツへの干渉であり、再び五輪の大家族メンバーの間で名称問題を惹起し、さらには両岸危機を高める可能性がある。なぜなら紀政女史とその仲間たちは、台湾への改称を通じて台湾独立を進めようとしているからだ」
 
このようにバッハ会長に対し、台湾の公民投票がいかに危険な政治活動であるかを強調したうえで、次のような要請を行っているのだ。
 
「今回の公民投票に関し、IOCにはCTOCを通じて台湾当局に警告を発し、今後のあらゆる問題の発生を防止するよう建議する」
 
バッハ会長は、この「建議」に従い、台湾側に「警告」を発したというわけだ。そのため姚元潮は世論から「売国奴」「密告した」などと叩かれた。
 
■台湾の虫けら扱いは全て中国のシナリオか
 
ちなみに姚元潮はこういった主張を押し通すため、次のようなデマをも書き綴っている。
 
「台湾の名は国家の領土範囲を反映していない。なぜなら台湾以外にも澎湖列島や金門、馬祖もあるからだ。台湾は中華民国の一部なのだ」
 
バッハ会長らが台湾の実情を知らない外国人だと思ってか、随分と大胆な嘘をついている。
 
「台湾」の名は実際には台湾本島だけでなく、澎湖、金門、馬祖をも含む中華民国の国号代わりに国際社会で通用している名称である。台湾本島が中華民国の全面積の九九パーセントを占めるのだから、それは当然だろう。
 
むしろ姚元潮ら中華民族主義者たちが護持してやまない「チャイニーズ・タイペイ」の名称こそ、領土の範囲を一切反映していない(そのような地名は存在しない)。
 
それにしても姚元潮がこうしたデマを大胆にもIOCに伝え、そしてIOC執行理事会がそのデマを平気で受け入れ、台湾国内の公民投票の動きに圧力までかけてきたのは驚きだ。
 
国際社会においてしばしば台湾は虫けらのように扱われることがあるが、たいていそこには中国の影響力が及んでいるものだ。今回の姚元潮、IOCが演じた「警告」劇も、実は全て中国のシナリオ通りではないのか。
 
■東亜ユース大会中止という前代未聞の嫌がらせ
 
次に、東亜五輪委員会(EAOC)による「厳正なる警告」とは何かだが、それは同委員会が台湾の台中で来年八月に開催予定だった東亜ユーズ競技大会を中止に追い込んだことだ。
 
それは七月二十四日の臨時理事会で決議された。公民投票の推進運動が「IOCの規定に違反する」との理由でだが、なぜ台湾の民間が国内で何を主張しようと、IOCには一切関係がなく、全くの言いがかりである。
 
EAOCは本部を中国に置き、委員長も中国人だ。そして七か国(地域を含む)の会員には中国、マカオ、香港、北朝鮮などが含まれるなど、完全に中国の影響下に置かれた組織である。だからこそここまで、台湾を虫けら扱いすることができたのだ。
 
もっとも中国主導のEAOCの横暴な恫喝が裏目に出た。
 
競技大会を中止させるという前代未聞の嫌がらせに、台湾国民は委縮しなかったばかりか逆に憤激し、多くが台湾正名の公民投票を支持したのだ。その結果、七月上旬の段階で十万にも満たなかった署名数は一気に膨れ上がり、最後は約五十二万人分にも達したのだった。
 
中国は墓穴を掘った格好だ。かくして国台弁報道官は、上記の理性を欠いた恫喝コメントを出したわけである。
 
■日本の国会は声を上げることはできないか
 
さてこの公民投票が行われた場合、有効投票数の中で賛成票数が反対票数を上回り、そして全有権者数の四分の一(約五百万人)を超えれば、台湾政府は公民投票法に基づき、CTOCを通じてIOCに台湾正名申請を行うことになるため、中国及び台湾の親中勢力は今後も様々な妨害を試みるだろう。
 
そしてここで思い出されるのが、二〇〇八年三月、総統選挙と同時に行われた台湾名義での国連加盟申請に関する公民投票だ。
 
この投票に対し中国は「台湾独立公民投票だ」として激怒し、世界各国に対して反対表明を要求。緊張の高まりを恐れた米国が反対の圧力を加えたほか、多数の国も反対を唱え、日本も反対とまではいわなかったが、不支持を表明。こうした各国の姿勢が台湾の有権者に不安を与えたほか、国民党も中国と歩調を合わせて投票のボイコットを呼びかけ、その結果、投票率が規定の五〇%に届かず不成立に終わったことがある。
 
同じような状況は、十一月の投票を阻止するため、何らかの形で現出するのだろう。しかもあの時の投票は民進党政権が推進したものだが、今度の投票に対して同党は、記述の通り冷淡だ。
 
台湾国民は虫けらではない。彼らが公民投票を通じ、自らに願望を合法的に表明することに、いかなる国も、いかなる政治勢力も妨害する権利はないのである。
 
二〇〇八年の公民投票の直前、欧州議会議員七百八十五名中の百名の議員が連名で台湾の公民投票支持、国加盟歓迎の声明を発表したが、こうした台湾激励の行動は、日本の国会では期待できないものか。
 
日本は東京五輪の開催国なのである。もっと中国の台湾に対する横暴な圧力問題に関心を寄せ、「中国はスポーツに政治を持ち込むな」であるとか、「台湾にはIOCに対し、改称を要請する権利はある」と訴える動きが官民にあってしかるべきである。