2018年10月19日(金曜日)
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【読者投稿】孫正義、異能ぶりを見せつけたプレゼン2時間   上村吉弘  フリーライター

孫正義、異能ぶりを見せつけたプレゼン2時間
 
上村吉弘  フリーライター

 
ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が4月24日、東京国際フォーラムで新卒向け会社説明会に登壇した。今回から初めて一般社会人も参加できることになり、満員となった5000人収容の会場は熱気に包まれた。
 
孫氏と言えば、4月20にTIME誌が発表した「世界で最も影響力のある100人」で、安倍首相とともに日本人から選出されたわずか2人のうちの1人だ。就任後のトランプ大統領といち早く会談するなど、その動向は国内外の財界のみならず、政官界からも注目を浴びている。
 
私がこの催しに参加したのは、同時代に生きる人物の中で歴史に名を残すであろう男を、一度くらいはこの目で見ておきたいという野次馬根性からだ。奇しくも、彼はプレゼンの中で、「同時代の人物の中で数百年後も語り継がれる人物がいるとしたら間違いなくスティーブ・ジョブズ(故人)だ。芸術と技術を融合させた現代のダ・ヴィンチとして」と語った。孫氏自身は、自らを同じステージの人間とは見ていないのかもしれないが、1981年に創立した会社をわずか30年余りで時価9兆円という巨大企業に育て上げた実績は、すでに日本の経済史に燦然と輝く立志伝中の実業家といえる。
 
私は、ソフトバンクを常に眉唾のまなざしで傍観してきた。その名が人口に膾炙したのはブロードバンドという言葉が普及し始めた2000年以降だろう。ソフトバンクに雇われた若者達が駅前で「ADSLの無料お試しキャンペーンです」とモデムの入った紙袋を手当たり次第に配っていた。ソフトバンクはこの頃、株価が時価総額20兆円を付けた後、ほぼ100分の1の2800億円まで暴落する。ITバブルの崩壊だ。孫氏は株主総会で“詐欺師”呼ばわりされる。
 
それでも、NTTの独占状態だった通信網に参入して勢いを取り戻すと、2006年にはボーダフォンを1.8兆円で買収して携帯事業に参入。ここでも世間の評価は辛辣だった。契約数でドコモやauの後塵を拝するジリ貧の企業を1兆円近い負債と引き換えに買収し、「無謀すぎる」とメディアに袋叩きに遭った。ところが、米国アップル社がiPhoneを発売すると、ジョブズ氏と友好関係を築いていた孫氏は契約を勝ち取り、2008年から国内で独占的に販売を開始し財務体質は改善し始める。
 
こうして山あり谷ありを繰り返しながらも、同社は規模を急拡大させて現在に至る。あのITバブル崩壊から、20年弱で絶頂時の時価総額の半分まで戻したのである。
 
PCソフトの卸売業から始まった同社だが、ADSL接続サービスで通信分野に進出し、携帯事業やAI事業へと軸足が移っていった。米国ヤフー社や中国アリババ社への出資で巨額の値上がり益を獲得したことで、「実態は投資会社だ」という声もある。この点について、孫氏は『群戦略』という言葉を用いてその投資スタンスを説明した。「各分野のナンバーワン企業=ユニコーンだけを集めてソフトバンクはプラットフォームになる」と。ユニコーンの群れを構築し、シナジー効果で価値を創造して圧倒的な情報革命の覇者になろうという野望である。
 
あらゆる分野に進出しているようにみえるソフトバンクだが、孫氏の脳裏にある会社の軸は創業時から変わっていないという。曰く「情報革命で人々を幸せに」。その先に、300年後も成長し続ける会社の未来を見据えている。
 
どの話も、どこかのメディアで孫氏がこれまでに語ってきた言葉の焼き回しなのだが、淀みのない語り口調や、会場を沸かせる軽いジョークなど、聴衆を惹きつけて飽きさせないプレゼン能力は傑出していた。未来を見通す眼力とほとばしる情熱の2時間ショーは、あっという間に幕を閉じた。刺激を受けた若き才能たちは、質の良いドキュメンタリー映画を1本観終わったような高揚した表情でそれぞれの帰路についた。
 
未来の孫正義がこの日、新たに誕生したのかもしれない。そんな歴史の連続性にドラマを感じながら私も家路についた。