2018年09月21日(金曜日)
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≪「めぐみへの誓い」―発端は≫ 野伏 翔

≪「めぐみへの誓い」―発端は≫
野伏 翔

 
2月10日沖縄県宜野湾市で「めぐみへの誓いー奪還」を公演してきた。この演劇は2010年東京紀伊国屋サザンシアターで劇団夜想会自主公演として初演。その後俳優座劇場で再演した時に観劇された、時の拉致問題担当大臣古屋圭司氏の計らいで政府拉致問題対策本部の啓発公演となり、以後3年間全国を回っている。
今年度の公演はこの沖縄公演が最後となる。あまり知られていないが、沖縄県は石川県に次いで特定失踪者の数が多い県である。この特定失踪者と言うのは政府が正式に認定した拉致被害者には入らないが、警察庁が「北朝鮮による拉致の疑いを排除できない失踪者」として発表している880数名の日本人のことである。
昨年浦添市に公演に来た時もそうだったが、沖縄では会場から熱い声がかかった。
芝居のラスト近く、横田滋さん役の原田大二郎が娘を取り返せない父親の苦悩を訴える場面では、客席から「頑張れ!」と声がかかり、その後のカーテンコールの時は拍手の渦の中に「ありがとう!ありがとう!」と叫ぶ声が聴かれ、舞台でお辞儀をしていた出演者たちの方が皆涙ぐんでしまっていた。
 
2002年の小泉訪朝時に蓮池夫婦、地村夫婦、曽我ひとみさんの5人の帰国者はあったものの、その時に政府は北朝鮮の報告を何の検証もせず、その他の拉致被害者、横田めぐみさんや田口八重子さん、増本るみ子さんたちを死亡、或いは未入境と伝えた。
だがその後偽の死亡診断書や偽の遺骨が送られてきて北朝鮮の嘘が判明し、国民の怒りは頂点に達したかに見えた。
しかしそれ以降は何の進展もなく一人の拉致被害者が帰ってくることもないまま時が流れていき、このままでは拉致問題は風化し、人々の記憶から忘れ去られていきそうであった。私がこの演劇を作ろうと思ったのはその頃である。
 
「お前右翼か?」私がこう言われたのは当時芝居の稽古場があった中野駅近くのガード下にある居酒屋でのことだった。新劇界では先輩に当たる俳優二名と美術家との四人で軽く飲んでいた時のことである。
話題が拉致問題になり私も熱く語っていたのであろう、いきなり先輩の一人Aが「君はどうしてそう拉致問題ばかりに夢中になるの?アフリカには飢えた子供たちがいっぱいいるんだよ」と来た。
Aは兄弟揃って俳優であり親戚には大物の映画関係者もいる、多少は名の売れていた俳優であったが、赤旗を購読する環境にどっぷり浸っている男だった。
私は拉致問題はただの誘拐事件ではなく、日本の主権を侵された大問題であり、もっとずっと多くの日本人が拉致されているらしいという事、日本国内に内通者がいて拉致が実行されてきた点などを詳しく説明し、丁度その時持っていた「これでもシラを切るのか北朝鮮」という石高健二氏の命を懸けて調べ上げた渾身のレポートである本を見せた。
Aはその本をパラパラとめくっていたが「こういうのよくあるんだよ。この前は南京虐殺の証拠写真はでたらめだという本があったけど、それこそがねつ造だという証拠が書いてある資料を読んだ。納得したよ」と嘯く。
その時美術家が口をはさんだ「こいつね、南京虐殺はなかったなんて言ってるんだぜ」「本当?おいおい気持ちはわかるけどさ、ものを作る人間がそれじゃ困るよ」とAが先ほど渡した本をポンとテーブルに投げ出した。
・・・私の内部に変なアドレナリンが駆け巡る。その時、それまで黙って聞いていた一番先輩格のBがテーブルの本を手に取りながら口を開いた「お前右翼か?」・・・・私はそれでもまだかろうじて先輩たちへの礼儀は守ろうとしていた。そして「右翼ってなんですか?その定義は?」と聞いた。
すると3人はフランス革命がどうの、ジャコバン党がああしたこうしたと騒いでいたが、Aが「結局あれだよ、右翼は天皇制賛成だな」美術家「産経新聞読んでる奴」B「要するにバカだな。産経の記事やこんな本の受け売りする奴とは仕事できないぞ!」と言って、その本を私の胸に投げ返した。
その瞬間、私の右の手がBの頬を張り飛ばしていた。やった瞬間「・・・おっと手を出したのはまずかったな」とは思ったが、謝るのもしゃくだから怒鳴りつけて3人を店から追い出した。3人の中の誰かが「お前の気持ちはわかる」とか「やっぱり右翼だ」とかなんとか言いながら出ていった。
・・・これ以外にも、手こそ出さなかったが似たような議論が数回あり、私と新劇の世界とは縁が薄くなったことは間違いない。
 
その後本格的に資料を調べ、脱北者や研究者、拉致被害者家族の話を聞き「めぐみへの誓い」の脚本を書くことになるのだが、調べれば調べるほど拉致問題は北朝鮮の問題以上に、日本国内における国家としての欠陥にその原因があるがことが分かってくる。
国民の命よりも国交正常化による名誉と利権を欲しがる官僚と政治家たち。在日におもねり真実を報道しようとしないマスメディア。そして同胞愛と言うものも愛国心と言うものも全く持ち合わせない、ABのような戦後民主主義の優等生たち。
 
戦いは果てしないが、今回の平昌オリンピックで見せてくれた、日の丸に対し敬意を払い誇りを持つ羽生結弦和選手を始めとする日本の若い世代に、期待を繋ぎたい。