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ロシアの技術援助で軍事偵察衛星打ち上げを成功させた金正恩  宮塚利夫(宮塚コリア研究所所長)

 北朝鮮は「ウリシク(我々方式)」とか「チュチェシク(主体式)」とかいう言葉をよく使う。要はすべての思想や行動はすべて北朝鮮独自の考え方やり方ということである。朝鮮中央通信は11月25日、金正恩総書記が25日まで二日連続で平壌の軍事偵察衛星の管制所を訪れ、在韓米軍基地やハワイの米軍基地などを撮影した写真などを確認したと発表した。また、韓国・釜山に停泊中の米原子力空母カールビンソンを撮影したとも主張しているが、偵察衛星の画像を確認する金正恩総書記は満面笑顔であった。もっとも撮影した写真を公表しておらず、撮影したとする発表の真偽や解像度などは不明であるが、公表すれば解像度が低いことを認めることになるため、非公開のままにしている可能性があるのか。

北朝鮮は5月と8月に2回連続して打ち上げに失敗したことは、金総書記の威信に傷をつけた。年末に行われるとみられる重要会議の党中央委員会総会で今年の金正恩総書記の功績として示すため、今回の軍事偵察衛星の打ち上げは何としても成功させる必要があった。

また、北朝鮮としては米韓の動きを把握し先制攻撃につなげる偵察能力を獲得することは重要な課題であった。米韓が監視能力を高めていることを、先制攻撃を狙った「危険千万な試み」と非難し、自らが偵察衛星を持つことを正当化してきた。金正恩総書記は打ち上げの成功に「万里(遠い先)を見下ろす『目』と『拳』を手にした」と語り、「(実践に備え)より多くの偵察衛星を運用する必要がある」と強調した。

 もっとも、今回の打ち上げの成功はロシアの軍事協力で、エンジンに関する技術が向上したという見方が有力で、韓国の申国防相は19日のテレビ番組で「北朝鮮はロシアの支援を受け、エンジンの問題点をほとんど解消した」との見方を明らかにしたが、何のことはない9月の朝露首脳会談後にロシアの技術者が北朝鮮に入り、技術支援を行っていたのである。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は12月3日、北朝鮮の国家航空宇宙技術総局の平壌総合管制所に設置された「偵察衛星運用室」が2日に任務に着手したと伝えた。これは11月21日に打ち上げた軍事偵察衛星「万里鑑号」の正式運用開始に伴う動きとみられるが、北朝鮮は万里鏡1号が12月1日から正式任務を始めると主張していた。偵察衛星は通常、運用試験などに数カ月を要するとされるが、先にも述べたように年末に今年の実績を総括して来年の方針を示す朝鮮労働党中央委員会総会を控えており、軍事面での成果を誇示するために、偵察衛星の運用開始を急いだとみられる。

 北朝鮮の軍事偵察衛星はデータ上、軌道に進入したが、ロケットから分離して軌道に入れば打ち上げは成功だが、その後に問題が生じれば衛星としては失敗と言われている。衛星として安定した機能を果たすのか、さらに見極める必要がある。

軍事偵察衛星「万里鏡1号」が宇宙の軌道を飛び周り始めたが、北朝鮮には時同じくして「朝鮮の新星、女将軍」が現れたという。これは金正恩総書記の娘金主愛(キム・ジュエ)を指す呼称で、米政府系のラジオ自由アジア(RFĄ)が平壌の消息筋の話として、「宇宙強国時代の未来は『朝鮮の新星、女将軍』によって今後さらに輝くだろう」との発言があったとのこと。金主愛が後継者となる手続きを終えたという見方もあるが、男系継承の伝統が続く北朝鮮で女子が最高指導者の後継者に赴くことへの拒否感が根強いなか、はたして金主愛が北朝鮮の最高指導者の後継者となるのか、万里鏡1号の今後の運用とともに気になるところである。