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勝って来るぞと勇ましく国を発った北朝鮮選手団 宮塚利夫(宮塚コリア研究所所長)

 中国の杭州奥体センター競技場で45ヶ国・地域から約1万2000人の選手が参加したアジア大会が、10月8日に閉幕した。今大会は中国にとってインフラ整備、運営に数兆円が投資されたといわれる、巨大な国家プロジェクトでもあった。選手、技術職員、メディアの計約2万人の宿舎として、113万㎡の敷地に108棟のビルを建設、地下鉄を通し、新たな街を造った。結果は中国が金メダル383個と圧倒的な数で1位となり、1100人を超える過去最多の選手団を編成した日本は。金メダル52個で2位、3位の韓国はメダル数は日本より多かったが、金メダル42個で3位であった。そして注目(?)されたのが北朝鮮であった。新型コロナウイルスの影響で2021年の東京五輪、22年の北京五輪には不参加で国際総合大会に出場は前回18年のアジア大会以来、5年ぶりの国際大会への参加となった。結果は金メダル11個で10位であったが、北朝鮮選手の相次ぐラフプレイも話題となった。

軍歌・露営の歌の「勝って来るぞと勇ましく,ちかあって故郷(くに)を出たからは 手柄かけずに死なりょうか」ではないが、北朝鮮の選手は「特別」な競技では、絶対負けられない相手がいた。9月1日に行われたサッカー男子の準々決勝、日本ー北朝鮮戦は大荒れの試合になった。北朝鮮の選手たちはラフプレイを繰り返し、敗戦後は審判団に詰め寄った。北朝鮮がこの試合で受けた警告は計6個。北朝鮮は試合の序盤から日本に対して殺気だったプレイを連発。背後から危険なスライディングタックルを見舞うなどの大荒れの展開となった。

 そして後半27分には、飲水タイムで日本のスタッフがクーラーボックスを持って水を配っていると、北朝鮮の選手がボトルを“強奪”。その際あろうことか、スタッフに対して拳を振り上げて殴ろうとする素振りを見せるなど、サッカーの試合ではまず見られない蛮行が飛び出した。さらには、試合後に敗戦が決まると、先にも紹介したように北朝鮮の金ギョンソクがまっすぐ主審に向かい、7、8人が続いた。日本の決勝点になったPKを巡る判定に抗議したとみられるとのことだったが。問題はこの時、駆け付けた申ヨンナム監督が選手を力任せに後ろに引っ張って止めたが、緊迫したムードが漂った。申監督は記者会見で「誤った判定により(選手が)少し興奮したことは事実だ。選手たちが試合中に少し興奮しすぎたことは認めるが、それがサッカーだ。サッカーの試合には対立はつきもの。私たちの行動は許容されるものだと思う。主審らが公正でなければサッカーに対する侮辱だ」と述べ、問題は判定にあると主張したのである。

 韓国の英語日刊紙『韓国中央日報』は「北朝鮮選手が準々決勝で審判に反撃する波乱の結末」とセンセーショナルなタイトルで、北朝鮮の蛮行を報道した。申監督の発言に対し「サッカーにおける身体的な口論、特に選手が審判に刃向かったり、試合終了後の笛が鳴った後に審判を攻撃する振る舞いは、試合の禁止や制裁によって厳しく罰せられる可能性がある」とし、試合後の振る舞いは厳罰に処するべきだと猛批判した。さらに「北朝鮮のスポーツシステムがいかに不透明で、実際に利用可能な処罰がないため、国際機関は北朝鮮を処罰する際に歯が立たないことが多い。北朝鮮のチームは国際的な舞台から自由に現れたり消えたりする傾向があるため、試合禁止や出場停止処分は基本的に役に立たない。選手やチームは北朝鮮国内に消えていき、処分が終わると再び現れるだけで、おそらく北朝鮮での競技キャリアには何の影響もない」と持論を展開、加えて、アジア大会を統括するアジア・オリンピック評議会(ОCA)にも非難の矛先を向けて、「できるだけ寛大で平等であろうとするあまり、北朝鮮の違反行為を見逃す傾向がある」と指摘したが、まさに言い得て妙である。日本サッカー協会もアジアサッカー連盟(AFC)と国際サッカー連盟(FIFA)に意見書を提出したというが、オリンピックについては「参加することではなくて勝つことに意義がある」と故金日成主席がうそぶいたことがある。北朝鮮の選手は国を発つ時に「絶対勝ってきて」と言われるそうだ。北朝鮮では国際大会で日米韓などと接触する場合、最高指導者が対処方針について指示するか、決裁を行うのが慣例という。10月10日の「朝鮮労働党創建記念日」に北朝鮮選手団は花を添えることができなかった。サッカーは金正恩総書記が最も好むスポーツである。