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泰山鳴動して鼠一匹ならぬ恥かきをした金正恩総書記  --全国的に生産された良質の肥料“糞尿弾”は成果がーー    宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄

  北朝鮮が鳴り物入りで打ち上げ失敗した軍事偵察衛星を巡り、韓国軍は7月5日、残骸の引き揚げ作業を同日付でロケット終了したと発表し。「チョンリマ(千里馬)21型」ロケットと「マルリギョン(万里鏡)1号」衛星の主要部分を引き揚げたとした上で、「米韓の専門家が綿密に分析した結果、偵察衛星としての軍事的効用が全くないと評価した」という。今回(5月31日)の軍事偵察衛星の打ち上げは北朝鮮の威信というより、金正恩総書記(以下、金正恩)の権威と名誉をかけて取り組んできた一大プロジェクトであった。4月18日には金正恩は娘(金主愛)を伴って偵察衛星の開発に当たっている国家宇宙開発局を視察しており、この日の打ち上げにも立ち会いマスコミにも報じられた。世の一部にはこれをもって、金正恩の金主愛への帝王学の研修だとする声もあるが、10歳の娘にロケットだ、ミサイルだなどということは分かるはずもない。写真で見る限り、金主愛は一貫して無表情であった。娘にいいところを見せつけようとした金正恩にとってはショックであった(もっとも、娘は自分がなぜその場にいるのかということを理解していないから、そんなに焦ることはなかっただろうが)。

 金正恩は国家宇宙開発局を視察した際、「敵対勢力(日本も入る)の動向を常時把握する必要がある」と述べ、軍事偵察衛星の必要性を強調した。偵察衛星の開発に自信を持ったのか、国際機関を通じて打ち上げの予告もする余裕を見せていた。北朝鮮はすぐにうちあげの失敗を認め、その映像と失敗の原因まで公表した。極めて異例なことであるが、金正恩の心中は穏やかではなかった。6月16~18日に金正恩参席のもと開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会拡大会議で、「最も重大な欠点」として軍事偵察衛星の打ち上げ失敗に言及した。議事録には、党第8回大会(21年1月)が示した国防力発展の5大重点目標の中でも軍事偵察衛星の開発は極めて大きな意義を持つとしながら、衛星打ち上げの準備を推進した活動家らの無責任さが辛らつに批判され、当該部門の活動家と科学者が重大な使命感を肝に銘じて、今回の打ち上げの失敗の原因と教訓を徹底的に分析し、早いうちに軍事偵察衛星を成功裏に打ち上げることで、人民軍の偵察情報能力を向上させ、宇宙開発分野でさらなる飛躍的発展を遂げるための近道をもたらすことに関する戦闘的課題が提示された、という。また、国防部門で党中央が示した核兵器発展方向と核力量増強路線を一貫してとらえて強力かつ威力ある核兵器の増産実績をもって、革命偉業をしっかり防衛することについて強調された。”核こそがわが命”の金正恩のための国防事業である。

 さて、6月中旬から北朝鮮の各地の協同農場では「アプクル(一期作)の小麦・大麦」の収穫作業に追われている。朝鮮中央通信などが北朝鮮最大の穀倉地帯である黄海北道の農場での麦類の収穫作業状況を伝えているが、「適地適作」「適時適作」の営農方針のもと大きな収穫を上げているとのこと。先月号でも書いたが、北朝鮮の農業生産では一に土壌、一に優秀な種子であるが、田畑に撒布された肥料工場で生産された化学肥料よりも、年初より人民の奮闘の賜物である、全国的に生産された良質の肥料”人糞弾“が効能を発揮しているようだ。北朝鮮の農村の住宅といえば、かつては今にでも崩れ落ちそうな屋根の家が多かったが、昨今では新たな農村の住宅建設が全国レベルで進捗しており、各地で多収穫に寄与した農業従事者を中心に無償で提供され、さらなる収穫量アップを目指すモチベーションにつながっているとのこと。北朝鮮の農村のあり様、生活環境は抜本的に改革されているとマスコミは大々的に報じているが、久しぶりの中朝国境踏査でこの現実を確かめたい。