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【憂国の直言】 中国と韓国の原発処理水を追及せよ   朝鮮近現代史研究所   所長 松木國俊

 実に真っ当な芸能人がいるものだと感心した。カンニング竹山氏である。彼は「Abema Prime」に出演し、韓国による原発処理水放出批判に対して「なんで福島だけ言われなきゃならない?そっちの原発の方がトリチウムをたくさん放出しているじゃないか」と本年5月13日付読売新聞に掲載された数字を基に反駁したのである。

同紙によれば、韓国の原発の年間トリチウム排出量は、月城原発71.1兆ベクレル、ハヌル原発51.9兆ベクレル、古里原発48.9兆ベクレル、ハンビッ原発23.5兆ベクレルである。

さらに6月23日付同紙によると、中国浙江省泰山第三原発が2020年に排出したトリチウムの量は143兆ベクレル、2021年に広東省陽江原発は112兆ベクレル、福建省寧徳原発は102兆ベクレル、遼寧省紅沿河原発は90兆ベクレルのトリチウムをそれぞれ放出している。

一方、福島第一原発が排出予定のトリチウム量は年間22兆ベクレルを下回っている。この事実をなんで日本政府は韓国や中国に指摘しないのだろうか。

7月4日、国際原子力機関(IAEA)も福島原発処理水の海洋放出に関する最終報告書で、「多核種除去装置(ALPS)を経た処理水は人体や環境にとって危険ではない」との見解を明らかにした。当然だろう。日本が有害なものを放出するはずがないのだ。

しかし韓国ギャラップが6月末に実施した韓国内世論調査ではが処理水による海洋・水産物の「汚染」を心配しているという回答が78%に達している。

一体なぜこうなっているのか。その答えは明らかだ。中国と韓国内の左翼勢力が手を握って日韓の間を分断しようと画策しているからだ。

現在米国は中共(中国共産党政権)の覇権がインド・太平洋地域への拡大するのを抑え込むために、日米韓の経済的・軍事的連携を深め、対中包囲網を築こうとしている。中国にしてみれば千年来の属国だった韓国なら自分の勢力下に引き込めると計算して、処理水問題で韓国との対日共闘を目論んでいるに違いない。中国の外務省報道官が「太平洋は日本の下水道ではない」と何の根拠もなしに度々日本を非難しているのは、韓国向けの扇動的発言と見るべきだろう。韓国人の反日感情と放射能への恐怖を利用して、日韓の間に溝を作らせようとしているのだ。

韓国内でも親北親中で野党第一党の「共に民主党」が処理水問題を政治利用し、日韓協調路線の尹錫悦政権を窮地に追い込もうとしている。同党は「汚染水(韓国では「処理水」を「汚染水」と報道している)の放出は韓国民の生命と安全への脅威だ。放射能テロだ」というフェイク情報を乱発しており、同党代表の李在明氏は「『汚染水』でも生ぬるい。『核廃水』とすべきだ」と主張している。彼らはひたすら国民の情緒に訴えて放射能への恐怖を煽り、「IAEAの報告書を尊重する」との立場を表明した韓国政府を「日本を擁護する売国の集まりだ」と決めつけて尹錫悦政権を激しく揺さぶっているのだ。

さらに李在明氏は6月8日にソウルの中国大使館を訪れ、邢海明(ケイカイメイ)中国大使と面談し、処理水放出問題を取り上げて「周辺国の懸念が高まっている」と述べ、邢大使は、「放出は極めて無責任な行為で、阻止しなければならない」と応じた。中国と韓国左翼勢力の共闘があからさまになった瞬間であった。

左翼的傾向の強い大手メディアも処理水に対する偏向報道を続けており、日本のNHKにあたるKBS地上波放送は「放射能への恐怖を語る市民の声」を連日取り上げている。7月7日付ハンギョレ新聞は済州島の海女や漁業者が「海が死んだら済州も死ぬ」という横断幕を掲げてデモを行う様子を詳細報道している。放射能で海が汚染する前に塩を買いだめようとする人々が食料品店におしかけ、塩の価格が暴騰する事態にまで発展してしまった。

これに対して韓国政府は現在のところ防戦一方である。いくら韓国の原子力専門家が安全性を証明する科学的根拠を示しても、「100年先の科学なら別の結論になるかもしれない」という支離滅裂な感情論で反駁されるのだ。

この状況は正に2008年にアメリカ産牛肉の輸入禁止を求めて全国で吹き荒れた反政府デモを彷彿させる。「アメリカで狂牛病が発生した。アメリカ産牛肉を食べると脳がスポンジ状態になる」「韓国人は狂牛病に罹りやすい」というデマが一挙に広がり、左翼勢力がこれを最大限利用して大規模な反米・反政府デモを全国で繰り広げた。その結果、時の李明博政権は崩壊寸前になり、苦し紛れに禁じ手であった「韓国大統領による竹島上陸」を強行して日韓関係を破壊してしまった。

しかし実際には「狂牛病」に罹った韓国人はアメリカに一人もいなかったことが後に判明している。この騒動でアメリカの牧畜業界に膨大な損失が発生し、米韓関係が大きく損なわれたことは言うまでもないだろう。

事ほど左様に韓国では自分たちの健康への被害に極めて神経質であり、やすやすと偽情報に騙される傾向がある。まして今回は放射能という全く目に見えないものが対象であり、一旦恐怖にかられた者はどのように科学的に根拠を示しても信じないだろう。そこに反日感情まで大きく絡んでおり、狂牛病とは比べ物にならないほどの破壊力を内包している。だからこそ中国も韓国内の親中左翼勢力も、日韓の間にくさびを打ち込む絶好の機会と捉えてこの問題を拡大させようとしているのだ。

このまま手をこまねいていては、日韓間の感情的対立が決定的となり、尹錫悦政権の土台が崩れ、中国の思惑通り日米韓の結束が瓦解しかねない。韓国に親中の左翼政権が誕生すれば、韓国は中国に取り込まれる恐れがあり、次は尖閣ばかりか沖縄本島、さらに日本全土が危なくなる。

ならばなんとしても、日韓の決裂は避けねばならない。ではそのためにどうするか。

現在日本政府は処理水問題を解決するための方策として「科学的根拠に基づいて丁寧に説明し納得してもらう」との一点張りだ。

しかし筆者は断言する。それは時間の無駄である。科学を信じない人々に科学的根拠を示しても納得するはずがないではないか。

解決する方法はただ一つしかない。冒頭で述べたカンニング竹山氏のように、韓国や中国が排出するトリチウムの量が福島第一原発よりはるかに多いことを声を大にして世界に訴え、中韓の主張がいかに欺瞞であるかを白日の下に晒すのだ。

中国は「原発事故で発生したトリチウムと正常稼働から出るトリチウムとは違う」という屁理屈を持ち出しているが、それこそ何の科学的根拠もない。両者の間に何の違いもないことは世界の科学者の常識である。もし福島第一原発の処理水放出が「放射能テロ」であれば、その何倍ものトリチウムを放出して来た中国人や韓国人はとっくに死滅しているはずではないか。

処理水問題でも「専守防衛」では勝てない。攻撃こそが最大の防御であり、誰もが納得できる客観的数字を基に相手の弱点をついて反駁してこそ、中国や韓国の反日勢力を黙らせることが出来るだろう。

なお、最後に7月4日付産経新聞に掲載された韓国原子力学会首席副代表である鄭釩津(チョンボムジン)慶煕(キョンヒ)大学教授の声を紹介しておきたい。

「放出するしないは日本の権限で決めることだが、万一科学的理由なしに『放出を2年遅らせます』などといえば、国民を説得しようと活動してきた韓国の科学者は『やはり危険性があったのではないか』などと国民から疑念の目を向けられるだろう」

 岸田首相に申しあげる。韓国の学者が「処理水の放出を遅らせてはならない」と言っているのだ。韓国で頑張ってくれている原子力専門家の方々の梯子を外すようなことは、ゆめゆめやってはなりませぬぞ。