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入管法改正に賛成する ―理義に叶つた外国人政策を 里見日本文化学研究所所長 亜細亜大学非常勤講師   金子 宗德

 二つの法案

 国会の会期末を六月二十一日に控へ、LGBT理解増進法案と入管法改正案が世間の注目を浴びてゐる。

前者の争点は、「性自認」といふ概念を条文に組み込むことの是非が争点である。「性自認」とは性別に関する自己認識のことで、この概念を受け入れると、「男性」としての生物学的機能を有する自称「女性」が生物学的「女性」専用とされてきた諸領域に踏み込んでもよいといふ解釈が成立する可能性が高い。

 その危険性については本号所収の座談会でも触れられてゐるので繰り返さないけれども、賛成派の多くは「少数派の人権尊重」を声高に叫ぶばかりで、多数派である生物学的「女性」の人権が侵害される可能性には無頓着である。

 この法案に関連して、ラーム・エマニュエル米国大使が「早期に法律を制定すべきだ」と内政干渉まがひの発言を繰り返してゐることは看過し難い。

 そもそも性を巡る問題は複雑かつ微妙であり、政治の場で公然と議論する上では慎重な姿勢が必要だ。G7広島サミットまでに成立させるべきといふ世迷言に振り回されることなく、国民各層とりわけ生物学的「女性」の広い理解が得られるよう国会議員各位におかれては議論を重ねて頂きたい。

 

 改正入管法の概要

 後者の争点は、日本からの退去を逃れようとする不法滞在者を送還する施策の是非である。

 出入国在留管理庁のウェブサイト(https://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/05_00007.html)には、改正の必要性が丁寧に説明されてゐるので、それをもとに改正案の目論見を整理したい。

 第一に、送還忌避者を巡る問題。入管法に定められた退去強制事由に該当し、日本から退去すべきことになったにもかかはらず、令和三年十二月末時点で、三千人余が退去を拒否してゐる(速報値だが、令和四年十二月末の時点では四千人余に達した)。加へて、そのうち千人強には前科があり、殺人・強姦・強盗・薬物など重大犯罪に関はつたものも少なくない。かうした外国人を国費で送還しようにも、①難民認定手続中は退去させることが出来ない、②送還した自国民の引き受けを拒否する国家が存在する、③送還しようとする飛行機の中で暴れて機長より搭乗拒否される事例が見られる、など法的な不備が存在する。

 第二に、収容を巡る問題。「全件収容主義」といふ表現があるやうに、退去が確定した外国人は本国に帰るまで収容施設で過ごさねばならない。収容施設は刑務所と異なり、保安上支障がない範囲内において最大限の自由が認められ、本国の風俗習慣や生活様式を尊重されるばかりか、外部との連絡も可能である。とは云へ、退去を拒否し続けると収容期間は長期化し、それに伴つて心身に問題が生ずる。さうした場合、一時的に収容を停止する仮放免といふ措置があるけれども、仮放免中に消息不明となるケースも多く、安易に仮放免を認めるわけにはいかない。一方、収容者の中には何としてでも仮放免の対象となるべくハンガー・ストライキに訴へる者も存在する。令和三年三月、名古屋出入国在留管理局に収容中のスリランカ人女性が死亡するといふ事件が起こつたが、彼女もハンガー・ストライキに訴へたことから体調を崩したといふ。

 第三に、紛争避難民などを保護する制度の問題。難民条約の定義において、「難民」とは、①人種、②宗教、③国籍、④特定の社会的集団の構成員であること、⑤政治的意見のいづれかの理由により迫害を受けるおそれがある者とされてゐる。厄介なのは、「迫害を受けるおそれ」といふ部分だ。何を以て「迫害」と認定し、如何なる状況を以て「おそれ」と見なすか、ある外国人の自国への入国を認めるか否かは国家主権に関はる問題であるから、その判断基準もまた国ごとに異なつて然るべきだ。それに関連して考へねばならぬのが、ウクライナ避難民の法的地位である。ウロ事変の勃発以来、日本は二千三百人余のウクライナ避難民を受け入れてゐるけれども、ロシアから「迫害を受けるおそれ」がある「難民」としてではなく、「人道上の配慮に基づく緊急措置」として法務大臣の裁量により保護してゐる状況であるといふ。

 以上の問題点を踏まへ、①保護すべき者を確実に保護する、②在留が認められない外国人は、速やかに退去させる、③退去までの間も不必要な収容はせず、収容する場合には適正な処遇を実施する、といふ考へ方に基づいて策定されたのが、今回の改正案である。

 具体的には、①紛争避難民など難民に準じて保護すべき外国人を対象とする「補完的保護対象者」制度を設ける、②テロリストや三年以上の実刑に処せられたものなど治安を害しかねない外国人は難民認定手続中でも退去を命ずることを可能とする、③二回に亘つて難民認定手続が却下された場合、それ以降の手続中であっても退去を命ずることを可能とする、即ち、退去逃れのために難民認定手続を繰り返すことを実質的に禁止する、④悪質な送還忌避者に罰則を科す、⑤自発的な退去を受け入れた外国人に対しては入国禁止期間の短縮を認める、⑥従前の「全件収容主義」を改め、親族や知人など本人の監督等を承諾してゐる者を「監理人」として、収容することなく退去に向けた手続を進める、⑦仮放免の運用にあたつては医師の判断を仰ぐ、といつた内容だ。本当に「監理人」の目が行き届くか若干の懸念があるけれども、相当に練られた内容である。自民党・公明党の連立与党に加へ、日本維新の会・国民民主党・有志の会といつた会派が大筋で合意し、五月初旬には衆議院で可決される見込みだ。

 

 ゴネ得を許すな!

 かうした動きに対して、五月七日に東京都杉並区でデモ行進を行ふなど、左派は抵抗を見せてゐる。興味深いのは参加者の数で、『東京新聞』には三千五百名とある一方、『赤旗』には千二百名とある。『赤旗』の方が実数に近いのだらう。

 『東京新聞』は「この国で生まれ育って『入管法改正』の陰で」といふ連載記事の中で、仮放免中の外国人の生活を取り上げてゐる。どの記事も、不法滞在者の両親から生まれた子供たちに焦点が当てられ、日本で生まれ育つたにもかかはらず在留資格が認められぬのは可哀想ではないか、と読者の同情を引かうとする書きぶりだ。

 しかし、そもそもの原因は不法滞在を続けた親ではないか。種々の理由が記されてゐるが、読者は真偽を確かめようがない。子を生み育て家庭を営むことは人間として重要なことであるが、だからこそ、親は子供を日本社会に適応させる義務を果たさなければならず、そのためには親が率先して日本社会の秩序を守らねばならぬ。家族の絆を振り翳して不法な要求を社会に認めさせようとすることを認めてはならない。

 そのやうなゴネ得を一部の外国人に認めることは、日本社会の秩序を守つて生活してゐる多くの外国人との公平性を欠くことになり、ひいては、日本人と外国人との関係に亀裂を生むことになりかねない。