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【憂国の直言】国益を損なう韓国への過剰配慮   松木國俊(朝鮮近現代研究所 所長)

 岸田首相は5月7日の日韓首脳会談後の記者会見で徴用工問題を巡り「私自身、当時厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と発言した。一体何に対して、誰に対して「心が痛む」のか意味不明である。それどころかこれは日本の国益を損ね将来に禍根を残す重大な失言であると筆者は断言する。

 

 韓国の最高裁判所は「日本による朝鮮半島統治は不法な植民地支配であり、その植民地支配に協力した日本企業による強制動員も不法である」という理由で日本企業に補償金支払いを命じている。当時の日本企業の活動を全て不法と見なしており、日本製鉄を訴えた4人の原告も「徴用」ではなく同社の「良い条件」に引かれて自ら応募していながら、「日本企業による強制労働」だと主張し勝訴したのだ。

 

岸田首相の発言を素直に受け取れば「日本による植民地支配の下で日本企業が朝鮮人を不法に強制労働させたことに心が痛む」となる。これは「日本統治は合法である」という日本の正当な立場と相いれず、韓国最高裁判所の判決理由を裏書きするだけではないだろうか。

 

いかに私的意見と断っても日本国首相が記者会見で述べたことは日本政府の公式見解に直結する。上記発言は明らかに尹錫悦政権に対する過剰配慮であり、日本が守るべき一線を越えている。一国の首相としての言葉の重みを岸田氏は全く理解していないのではないかと危惧せざるを得ない。

 

そもそも「日韓併合」はその名の通り「国家併合」であり、日本が宗主国として朝鮮半島を植民地支配したものではない。「日韓併合」によって朝鮮の人々は日本国民となり、彼らに日本人と同じ権利と義務が生じたのが歴史的事実である。朝鮮半島で行われた日本企業の活動も当然合法であり、日本製鉄が訴えられる理由など初めからなかったのだ。

 

では日本政府による「徴用」はどうだろうか。「徴用」とは戦時において最も効率的な生産体制を実現するために国家が国民に科す義務であり、合法的な処置である。第二次大戦中に欧米諸国でも行われており、国際法であるILO強制労働条約(日本は1932年11月に批准)に抵触するものではない。

 

従って、日本国民だった朝鮮の人々を日本の法律に基づいて徴用することには何の問題もない。しかも日本人に対する徴用は1939年に発動されたが、朝鮮人に対しては5年遅れて1944年9月に発動されている。朝鮮の人々の方がむしろ優遇されているのだ。これを「強制連行」というなら当時の日本人の全てが「強制連行」されたことになってしまうだろう。

 

もともと朝鮮人の日本渡航は厳しく制限されていた。1910年に「日韓併合」が行われて以来、朝鮮の農村から言葉もわからず技術も持たない青壮年が高賃金を求めて日本に流入し、社会問題を各地で引き起こしたからである。

ところが1937年に日中戦争が勃発し、多くの日本人男性が戦地へ赴いたことから国内の基幹産業において人手不足を来したため、朝鮮人労働者の日本本土への渡航制限を緩和することとなり、1939年から「自由募集制度」が導入された。これによって各企業の採用担当者が朝鮮半島に出向き、直接就職希望者を募集することが可能となった。

 

第二次大戦がはじまると、炭鉱などでの人手不足がさらに深刻となったため、1942年に「官斡旋」という制度がスタートした。これは朝鮮の行政組織を通して労働者を募集する制度であり、その目的は派遣先での給与や待遇について公官庁が責任を持つことで、安心して応募できるようにしたものである。もちろん応募は自由であり強制性はなかった。またこの制度では希望者は家族も同伴することも可能であった。

さらに第二次大戦末期にはあらゆる産業で人手不足となり、1944年9月にそれまで朝鮮半島に対しては猶予されていた「徴用」が発令され、その後半年間のみ実施された。これが国際法からも合法であることは既に指摘したとおりである。

 

ではその待遇面ではどうだろう。1944年11月に徴用され、広島の東洋工業(現マツダ)で働いた鄭忠海は自叙伝『朝鮮人徴用工の手記』(河合出版1990年)の中で「宿舎も食べ物も申し分なく、月給も140円と当時の教職員を上回る高額だった」と書いている。

 

さらに炭坑のような厳しい環境で働く作業者の給与は極めて高く、1944年に九州の炭鉱で支払われた賃金は、各種手当を含めて月収で150円~180円、勤務成績のよいものは200円~300円であった。300円といえば当時の軍隊では大佐クラスの給与に匹敵する額である。当時の炭鉱での賃金算定は作業習熟度や出炭量などを基に厳格に計算されており日本

人と朝鮮人の間に賃金上の差別は全くなかった。また危険な作業は大事故に繋がるので不慣れな朝鮮人労働者には任せず、熟練した日本人が当たっていたのが実態である。

 

このような高賃金を目指して、戦前・戦中に渡航資格のない多くの朝鮮の青壮年が内地に密航している。昭和14年から17年の4年間だけでも19,200人の密航者が発覚している。もし日本が朝鮮半島から無理やり人を引っ張って酷使したのが事実なら、密航者をみつければすぐに炭鉱に放り込んだはずだ。ところが彼らは「渡航法違反」として朝鮮に強制送還された。法治国家である日本として当然だろう。

 

岸田首相に申し上げる。当時の朝鮮人労働者の実態は以上の通りであり、日本政府や日本企業に何ら責められるべき点はない。

「厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをした」のは全ての日本国民である。祖国日本の自存自衛のため、さらにアジアの植民地解放という大義のために、私たちの父祖は決死の覚悟で艱難辛苦に堪えて大東亜戦争を戦ったのだ。

敗れたとは言え結果的に地球上から植民地は一掃され、人種平等の世界が出現した。大東亜戦争は人類の歴史を大きく前進させる「聖戦」であったと未来の歴史家は見なすに違いない。

朝鮮の人たちも「半島同胞」として日本軍に志願し、或いは日本軍属として共に戦った。特攻隊員として散った方も多い。靖国神社には2万2千余柱の朝鮮半島出身の英霊が祀られている。朝鮮半島出身者を含む「靖国の英霊」への顕彰をおろそかにしてきたことにこそ、日本国首相として「心を痛める」べきではないだろうか。

 

外交は押し合いであって譲り合いではない。相手への過剰配慮は国益を損なうだけだ。まして日本のトップが韓国側の歴史観に迎合し、個人的感情を披瀝して媚びを売るなど言語道断である。韓国が捏造した歴史を正当化することになり、日本人の名誉と誇りが将来に亘って深く傷つくことになる。その一方で韓国人の被害者意識は益々高まり、日韓の間に和解は永遠に訪れないだろう。それが双方の国益に沿わないことは明らかである。

日本国のリーダーとして歴史の真実をしっかりと勉強し、外交の場においても堂々と日本の正当な立場を貫き、相手の間違った歴史認識を糺して日本人の名誉と国益を守ること。それがあなたの日本国民に対する重大な義務であることを是非共忘れないで頂きたい。

 

以上