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全国的に生産された良質の肥料(糞尿弾)の出番   宮塚利夫(宮塚コリア研究所所長)

 毎度尾籠なタイトルで申し訳ないが、今の北朝鮮を知るにはこのような奇天烈なタイトルで挑むしかないだろう。5月に入り北朝鮮では全国的に「モネギチョントゥ(田植え戦闘)」が始まった。年初に全国的に生産された良質な肥料(強制的に納入させられた人糞)を投入した水田での国民総動員の田植えである。「米は社会主義」「米櫃に米が足りてこそ社会主義社会は実現する」を建国以来標榜してきた北朝鮮にとって、田植えは農民だけの作業ではなく、全国民が作業に励まなければならないチョントゥ(戦闘)である。中朝国境の中国側から北朝鮮の田植え作業を見下ろすことができるが、未だに大勢の人手による田植え作業である。もっとも、北朝鮮にも田植え機もあるが、真ん中に座ったサングラスをかけた男性が機械を操作し、双方の側に座った女性が苗をいちいち補充する、自動田植え機とは言い難い代物ではあるが。

 北朝鮮の食糧不足は慢性的な宿痾であるが、稲作の生産に必要なのは一に種子、二に土壌づくりであるが、北朝鮮は種子改良と肥料づくりは後れを取っている。たしかに肥料工場で生産される化学肥料の「チュチェピリョ(主体肥料)」なるものもあるが、北朝鮮では全体肥料使用量の半分以上を春季の田植えに投入しなければならず、しかも全体肥料使用量の半分以上を輸入に依存している有様で、その大部分は中国産の肥料である。しかもこの中国産の肥料の輸入も新型コロナウイルスの防疫措置に伴う国境封鎖で途絶えてしまい、農業生産に多大な影響を与えた。北朝鮮はかなり以前から有機農業を強調しており、化学肥料の投入減はそれに伴う自然現象であると主張してきたが、栄養成分の比重の低い有機肥料にとって代わることはできない。花崗岩を母岩にしたやせた土壌では化学肥料の助けなしには生産性の向上は期待できないのである。そこで、北朝鮮自慢の主体肥料の投入であるが、「また、国産肥料の質の悪さも問題になっている。協力者が聞いた金亭ジク郡の農場員は、『昨年、国産の科学肥料を施した畑では、人糞などで作った堆肥を施した畑より生産量がずっと低かった。国産肥料はあまりにも低質なのだ』と説明する」(「堆肥より劣る国産化学肥料」アジアプレス2021・5・19)有様である

 中国税関総署が4月に発表した貿易統計によると、3月の北朝鮮の中国からのコメ輸入は、前月比約2・5倍の4万6762㌧で、1~3月で昨年一年間の総量を上回る米を輸入購入していたのである。しかも、昨年秋以降、北朝鮮は通常食べない安価な長粒米も買い入れており、食糧難の深刻さを物語っている。もっともこのような深刻な食糧不足難にあるにもかかわらず、「2009年度以降、朝鮮の穀物生産は600万㌧に使い500万㌧台後半を維持してきた。2019年度にはかつてない記録的な大豊作になった。朝鮮政府の報告をもとに国連の人道主義事業調整事務所(OCHĄ)が発表した数字は665万㌧である。厳しい経済制裁の下で朝鮮御食糧自給率は90%台と南朝鮮や日本と比べてもともと非常に高いが、穀物の増産が続いている現在の趨勢からすれば、600万㌧水準の安定的維持はもはや時間の問題である」(「朝鮮新報」「自給自足は目前、食生活の質も向上」2023年3月23日号)と喧伝しているが、中国税関総署の発表とこの朝鮮新報の記事の相違のどちらを信用するかと言うことになるが、一国の年間穀物需要量は住民の食糧、工業用原料、家畜用飼料、種子用備蓄などからなるが、「人口2500万人の朝鮮の場合 、それは600万㌧とのこと」(「朝鮮新報」前掲)だが、近年の北朝鮮の食糧生産は500万㌧にも達していないのが実情だ。北朝鮮の穀物生産量には米穀、麦類、それにジャガイモ類が含まれており、特にジャガイモの生産を重大事業としている。