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【書籍紹介】 読書の秋 日本人であることをもう一度考える一冊 『「アマゾンおケイ」の肖像』 軍事アナリスト・小川和久著 

友人と話した折、おばあ様が104歳で大往生をされたとのこと。

大戦中は看護婦として戦場で兵士たちを癒し、治療し、看取ってきた方だと話していた。

大変気丈でしっかりとして物事に動じない腰の据わった方だったそうだ。もっと話を聞いておけば良かったと今更ながら悔やんでいるという。

人は記憶の中で生きるという。

「おケイさん」は息子である小川和久氏により永遠に生きる女性となった。

『「アマゾンおケイ」の肖像』は、著者である軍事評論家小川和久氏の御母堂のドキュメンタリー大作である。タイトルの「アマゾンおケイ」とは御母堂ご自身が願った名前という。

 

360ページを超える超大作だが、一気に読み通すせるのは緻密な取材と客観的筆致でありながら、底に溢れ散る母への愛情が感じられるからだと思う。

最近の女性が読むと「えっ!、この人、本当に実在したの?」と驚くかもしれない。

 

多くの小説に登場するヒロイン像がある。強い女性の典型ともいえる『風と共に去りぬ』(マーガレット・ミッチェル)や『女の一生』(森本薫)などもあるが、それぞれが決めセリフを持っている。「明日は明日の風が吹く! 明日考えよう」、「自分で選んで歩きだした道だもの。間違えたら自分で直さなきゃ」。

これらは将に創作による女性像だ。

だが「おケイ」さんは違う。実在した人物、それも魅了的でありながら毅然としていた貴婦人なのである。

今時、このような女性はお目にかかれない。このような女性を紹介してくれた著者に感謝。

 

「おケイさん」は、男性に媚びない。

「おケイさん」は、自分で道を拓く。

「おケイさん」は、他人におぶさらない。

「おケイさん」は、人を利用しない。

男性が思わず膝をつき忠誠を誓う何かが彼女の中にあったのだろう。

「私はエマ・ハミルトン夫人」と口癖のように言っていたという「おケイさん」だが、ネルソン将軍の恋人であったハミルトン夫人に匹敵する日本女性だと理解できる。

 

13歳でブラジルに渡り、苦労の挙句、ブラジルの新聞社で文明の利器タイプライターを覚え、言葉も覚え、財を成し、人にへつらわず堂々と日本へ帰国。その後も富を築き、CIAの創設者の一人でもあるロバート・ジョイス氏との終生にわたる互いの想いを秘めた人生は、

一度も会わずして恋文を交わした「エロいーズとアベラール」を彷彿させる悲恋である。

 

日本への郷愁、祖国愛も含め、大戦中の多額の軍への寄付も並大抵ではない。

唯一の息子への何よりの遺産は、深い愛情と考え切り開く力だったのではないかと思う。筆者である小川氏の堂々とした生き方が「おケイさん」の何よりの遺産であったのではないだろうか。

冷静に事実を述べていく中に垣間見える母への深い愛情も女性読者として嬉しい。

今時なかなかいないような女性で、友人のおばあ様のように毅然として生きた女性たちの代表ともいえるのが「おケイさん」である。

男性読者には真の日本女性とは「おケイさん」だと知って欲しい。

女性読者には「おケイさん」の一端を学んで欲しい。

日本人とは? 日本女性とは? 改めて考える一冊である。

 

当時の歴史や裏話などを含めた超大作として是非お勧めしたい。

 

「アマゾンおケイ」の肖像

集英社インターナショナル刊

2100円+税

https://www.shueisha-int.co.jp/publish/