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奇々怪々な北朝鮮が報じるコロナ感染者数   宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)

北朝鮮という国は「ゼロ」という数字と「100」という数字がよほど好きらしい。「100」と言えば、北朝鮮の最高人民会議代議員選挙などでは有権者が100パーセント投票し、投票者100パーセント賛成したと報じるのが常である。投票所で反対票を投じるには他の投票箱の所に行かなければならず、そのような動作をしたらすぐに反動分子として捕らえられ、強制収容所送りとなること必至なので皆が賛成票を入れるのである。

 さて、日本や韓国では新型コロナの感染者が急増しているのに、北朝鮮の朝鮮中央通信は7月30日付で「北朝鮮が5月に新型コロナ流入を認めて以来、初めて一日の新規発熱者ゼロだった」と報じた。北朝鮮は新型コロナ流入を認めた5月12日以来、毎日「発熱者」数を発表しており、80日目で初めて「ゼロ」になったということである。それにしてもなぜ「80日目でゼロ」なのか。このゼロ発表の前日の7月29日に韓国政府系シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)が公表した「北韓(北朝鮮)経済レビュー」に、漢陽大学医学部申栄全教授の寄稿文が掲載されたが、申教授は「発熱者全員が新型コロナ感染者の場合、少なくとも死者は2万8800人がいると見なすべきで、無症状の感染者や未報告事例なども勘案すると最低5万人に達した可能性もある」と指摘した。北朝鮮は新型コロナ感染により死亡したとみられる人の数を74人と発表しているが、北朝鮮が国際社会からのワクチン提供を受け入れを表明しておらず、申教授は「常識的にあり得ない数値」と断言した。

 北朝鮮が発表する感染者数や死者、致死率の統計の信憑性が低いと韓国が指摘したことについて、北朝鮮の対外向け週刊誌「統一新報」6月12日付の時論で「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と批判したばかりであった。最大非常防疫体系が稼働して二カ月目の7月12日には、朝鮮中央通信が国家非常防疫司令部の通報によると、一日当たりの全国的な新規発熱者数は11日(前日18時間から24時間)が900人余りで、12日は770人余りであった。12日現在の累計発熱者数は476万9330人余りで、476万7690人余りが全快し、1570人余りが治療を受けていると報じた。

 北朝鮮の発熱者数はコロナ流入を発表した3日後の5月15日に39万2990人余りの最高値を記録した後、同27日には10万人を、6月24日には1万人を下回るなど、感染状況は一貫して減少傾向で推移してきている。地域別に見ると、コロナ発生初期は一日当たりの発生者数が20万印を記録し、全国で最も感染状況が深刻だった平壌の発熱者数は7月11日現在、38人に激減し、全国最多は平安南道の249人で、南浦市と開城市はゼロで、この時点で北朝鮮は「全国的な防疫状況が完全な安全局面に入った」と公言した。

 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は7月7日号で「わが国は完全封鎖と隔絶措置を取り、短期間で世界を驚かせるような奇跡を創造した」と自画自賛したが、このような措置の断行と中国との国境封鎖により、北朝鮮の庶民の台所である各地の市場から中国製の食料や物資が消えて、一部の地域では餓死者が出ているとのこと。中国は最近、年末に予定されている共産党大会に向けて国境での検疫を強化しているため、北朝鮮の食糧難は今後も悪化する見通しで、国連食糧農業機関(FAО)は7月24日に公表した報告書で「直ちに食糧支援が必要な44ヶ国」に北朝鮮モ含めた。「コロナ死亡者よりも、食料不足による餓死が深刻化している」と報じられるほどに深刻な食糧難に陥っている。「ろうどうしんぶん」は「共和国の行路で今日のように非常に厳しい局面はなかった」と報じるほどである。

 さて、80日目で新規感染者「ゼロ」と発表したが、5月12日に新型コロナ流入を公表したのは、4月15日の故金日成主席生誕110周年記念、4月29日の朝鮮人民軍創建90周年記念の慶祝日の後で、これ以上新型コロナ感染者の発生をこれ以上隠し切れなくなって止むをえず「新型コロナ感染者発生」の事実を発表したが、今度の「80日目で感染者ゼロ」の公表も意図的なものではなかったのでは。90と110の間の「100日目でゼロ達成」としないで、「80日目でゼロ」達成としたのは、90よりも10早い数字を使ったからで、「発生者ゼロ」は100日ではなく90よりも早い「80日目ゼロ」として、「短期間で世界を驚かせる奇跡を創造した」と吹聴したが、北朝鮮の報じる新型コロナ感染者数については、誰も驚かないし信用もしていない。