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奇々怪々な北朝鮮のコロナ報道と金正恩の頓珍漢なプロパガンダ 宮塚利夫(宮塚コリア研究所代表)

北朝鮮の防疫当局は6月30日、国内で感染拡大が続く新型コロナウイルスについて、4月初めに韓国と近接する地域で「見慣れないもの」に触れた二人から首都、平壌を始めとする全国に拡散したとする調査結果を発表し、北朝鮮のメディアが7月1日に報じた。北朝鮮は2019年末に中国・武漢発の新型コロナウイルス(CОVID―19)感染症が世界的に発生して以来、WHО(世界保健機構)に感染者ゼロと主張してきたが、ゼロ報告は超独裁国仲間のトルクメニスタンと北朝鮮二か国だけである。それが5月12日にオミクロン変異株「BA・2」の感染者が発生したことが朝鮮労働党の会議で確認されたと発表した。それ以後、毎日発熱患者の新規発生者数発表しているが、6月3日の朝鮮中央通信によれば4月末からの発熱者累計は約391万人、死者は70人(死亡率0.0018%)。WHОによれば、感染報告1万人以上の198國・地域の中で、死亡率最低はブータンの0.035%だが北朝鮮はその20分の1に過ぎない。北朝鮮メディアは「情勢が改善された」と強調しだしたが、彼らが上げていた治療法と薬品は「柳の葉を煎じて1日3回飲む」「ヨモギの煙で家を消毒する」。そして「最高尊厳(金正恩のこと)が下さった『愛の不死薬』」を服用することであった。この「不死薬」は中国製のワクチンと言われているが、北朝鮮は昨年WHОが中国製ワクチン300万本供給を申し出たのを断った経緯がある。WHО報告で、トルクメニスタンはワクチン接種については報告しているが、接種ゼロ報告は北朝鮮と超独裁国エリトリアだけとのこと。

6月16日には黄海南道の海州市の約800世帯で、急性腸内性伝染病の感染者が発生したという。この急性腸内伝染病の具体的な病名は不明だが、腸チフス、パラチフス、赤痢、コレラではないかと言われているが、これらの水飲性感染症は貧困や飢餓、劣悪な衛生環境に引き起こされるものと言われ、北朝鮮では発生条件が十分にそろっている。防疫当局は風船にぶら下がって飛んでくる見慣れないものへの警戒を指示し、事実上、韓国の脱北者団体が風船で散布したしてきた北朝鮮体制非難ビラを感染源と決めつけた形である。私は朝鮮半島上空を乱舞する”紙爆弾”こと風船ビラを3000枚以上を蒐集しているが、韓国の脱北者団体が6月7日に、5日に京畿道抱川からマスク2万枚、解熱.鎮痛剤1万5000錠.向けてビタミンcサプリメント3万錠を大型アドバルーン20個で送ったと説明したが、脱北者団体が北朝鮮に風船ビラを散布する本来の目的は、金王朝独裁体制の崩壊と北朝鮮人民に真の北朝鮮の事実を知らせるためのものであり、北朝鮮の人民に塗炭の苦しみを与えるような医薬品やマスクなど「見慣れないもの」を送るだろうか。

 防疫当局の調査結果によると、黄海南道南東部、金剛郡伊布里の山野などで見慣れないものに触れた軍人と幼稚園児にコロナの症状が見られ、抗体検査で陽性と判定されたとのこと。防疫当局は4月中旬にこの地域から平壌を訪れた数人を介して感染が全国に広がったと結論づけ、脱北者団体に責任を転嫁したが、この報告には北朝鮮特有の“虚偽報告”である。

北朝鮮では現場の担当者が感染拡大の責任を逃れるために過少または虚偽の報告する慣習があり、金正恩には実際の感染状況は伝わらなかった。しかし、金正恩は感染拡大を自らの指導力で感染拡大を阻止したと過信し、4月15日の故金日成主席の生誕110周年記念行事や4月15日の朝鮮人民軍創建90周年の軍事パレードなど、感染拡大のリスクの高い行事を連発したが、これら慶祝事を前にして「実はわが国でも新型コロナ感染者が発生していました」とは言えないだろう。金正恩はコロナ感染症発生を認めた直後に開かれた非常協議会で内閣や保健医療部門の担当者、中央検察所長らを厳しく批判し叱責したというが、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、4月末以降の累計の発熱患者は約458万人で、このうち99・1%は完治し、治療中の患者は5万人弱とのこと。医療体制が脆弱でワクチン接種も進んでいない北朝鮮でのコロナ感染者数と完治者数をどう判断するのか。一方、「腸の感染症」の発生が伝えられた黄海南道には医薬品や食料が続々と送りこまれ,金正恩が真っ先に自宅の常備薬を送ったが、常備薬をもらった住民が「愛の不死薬」に涙を流したとのこと。北朝鮮のメディアは、金正恩と夫人の李雪主の二人が薬品を用意している姿を報じたが、呆れたプロパガンダである。