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【憂国の直言】尹錫悦政権の「対日接近」を警戒せよ    松木國俊(朝鮮近現代史研究所所長)

5月10日、韓国の新しい大統領に尹錫悦氏が就任した。彼の父親は一橋大学で客員教授を務め、彼自身も青年時代に訪日体験があることから、尹錫悦氏は親日的な人物だろうという期待が日本の一部にある。だがそれは大きな誤りである。

まず尹錫悦氏の家系を見てみよう。「尹氏」の家系は筆者の知る限り一系統しかない。ならば1932年に上海で「天長節爆破事件」を起こし、民間人を含む多数を死傷させた反日テロリスト「尹奉吉」は尹錫悦氏の先祖となる。彼にとって「抗日義士」と称えられる「尹奉吉」は尹一族の「誇るべき英雄」に違いない。彼が大統領選挙出馬発表の記者会見をした場所が「尹奉吉義士記念館」だったことが何よりそれを物語っている。

そのような血筋に加え、幼いころから徹底した反日教育で育った尹錫悦氏の歴史認識は戦後韓国がでっち上げた「反日史観」そのものであると見るべきだろう。事実、彼は大邱市の「慰安婦記念館」を訪れて、元慰安婦を自称する李容洙氏の手をとって「私が必ず日本から謝罪を取り付けます。おばあさんらの心の傷を必ず癒すようにします」と約束した。「朝鮮の女性20万人が日本政府によって強制連行され、性奴隷にされた」と信じて疑わない彼が親日的であるわけがないのだ。

大統領に就任した尹錫悦氏の前には難問が山積みとなっている。失業者増大、狂騰した不動産価格、物価高騰、社会格差の拡大、少子化問題、半導体や自動車を柱とする輸出の先行き不透明など、韓国が抱える問題はどれも一朝一夕に解決できるものではない。

加えて議会では野党が圧倒的多数を占めており、改革を目指して法案を提出しても、野党議員の反対でことごとく否決されることが予想される。その状況は少なくとも次回の総選挙が行われる2年後まで続くだろう。

従って尹政権が支持率を保つには、冷え切った日韓関係を韓国の主張に沿った形で正常化し、対日外交での勝利をアピールすることが最も有効だと尹錫悦氏は考えているはずだ。

彼が「日韓関係改善」を標榜しているのは決して日本に好意を持っているからでなく、それが外交的勝利をもたらし、政権浮揚につながるという冷徹な計算によるものだということを我々は知るべきである。相手を篭絡するために現実的手段に訴える尹錫悦氏は「単純反日」の文在寅氏よりむしろ日本にとって手ごわい相手となる可能性が高いのだ。

尹錫悦政権は、就任早々歴史問題をめぐって日本に攻勢をかけてくるだろう。そしてすでにその前哨戦は始まっている。尹錫悦氏は4月下旬に「政策協議代表団」を日本に派遣した。鄭鎮碩代表は外務省で記者団に「片手では音を出すことはできない。両国が誠意を持って努力しなければならない」と述べ、歴史問題での日本側の歩み寄りを促している。

さらに朴振外交部長官候補は5月2日に韓国国会で開かれた人事聴聞会で、徴用工裁判に対しては「司法府判決を尊重する」と断言した。慰安婦問題解決のためには日本の謝罪が必要だという点にも言及した。韓国として歴史問題は譲らないことを宣言したのだ。

これまで日本政府は歴史的事実に基づいて「日韓併合は合法であった」「日本の官憲による強制連行はなかった」「日韓間の請求権問題は解決済」という立場を貫いてきた。だが尹政権は米国政府や日本世論を巻き込んで日本政府に妥協を迫り、なし崩し的に日本の立場を崩壊させようとするだろう。まず「日韓関係改善のために自分たちも努力するが、慰安婦問題や徴用工問題について日本側にも協力して欲しい」と日本側にボールを投げて来るに違いない。韓国を訪問するバイデン米国大統領にも「日米韓の連携を強固にするために、日本側の譲歩を取り付けて欲しい」と申し入れ、米国が日本に圧力をかけてくることも考えられる。

韓国がボールを投げてくれば朝日や毎日など反日マスコミが「韓国の主張に柔軟に対応すべき」の大合唱を始め、バラエティー番組の軽薄なコメンテーターが「日本政府は意地を張るな」と国民を惑わす発言を連発して、一気に世論が「対韓融和」へと向かう恐れがある。

 だが日本側が改めて謝罪し少しでも補償に応じれば、これまでの日本の立場は根本から崩れる。そればかりか「不法な植民地支配をした」「韓国人を強制連行して女は性奴隷、男は奴隷労働をさせた」という歴史を歪曲した韓国の主張に正当性を与えかねない。日本は永久に韓国からたかられ、日本人は永遠に世界から侮蔑されるだろう。尹錫悦政権が打ち立てた歴史に残る「大勝利」となる。

 岸田首相に申し上げる。日本人の名誉にかけてここで負けてはいけない。韓国側のあらゆる甘言や詭弁に惑わされず、薄っぺらな世論に阿ず、歴史の真実に基づいて毅然と日本の立場を守り、誇りある日本を子々孫々に残すことが、あなたが首相として今果たすべき最大の責務である。