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―ロシアの蛮行が北朝鮮に「自衛の核保有」を正当化づける「悪の教訓」に― 宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)

 北朝鮮は今年1月に7回ものミサイル発射実験を行ったが、2月に入るとピタリとミサイルの「乱れ打ち」は止まった。これは北朝鮮の最大の友好国で擁護国でもある中国の北京で、冬季オリンピックが開催されたからである。3月には冬季パラリンピックが開催されるので、3月もミサイル発射実験は行わないだろうと予想されていたが、冬季オリンピックが終わるや、2月27日には8回目となる弾道ミサイルを日本海に発射した。北朝鮮は偵察衛星開発のための行程計画に基づいた重要な試験を行ったと発表し、偵察衛星が宇宙から撮影したとされる朝鮮半島の画像を公開したが、米韓は北朝鮮が偵察衛を地球の周回軌道に乗せ、運用する技術に至っていないと分析している。

 北朝鮮は3月5日には国際社会がロシアによるウクライナ侵攻に対応している中、また、発射実験前日の3月4日には北京パラリンピックが開幕したのにもかかわらず、9回目の発射実験を行った。北朝鮮にとってパラリンピックは「障害者問題に限らず普遍的な人権感覚が欠如しており、五輪ほどの配慮はしないだろう」と指摘されていた通りに発射実験を強行した。北朝鮮外務省は研究者の談話として「ウクライナで起きている事態はロシアの安全保障上の要求を無視し、一方的に制裁や圧迫に固執してきた米国の強権と横暴が根本的な原因だ」として米国を非難し、ロシアを擁護した。

 北朝鮮は3月16日に、またもや弾道ミサイル発射実験を行ったが、発射直後に空中で爆発し首都平壌に大量の「破片の雨」が降り、民間に人命被害が発生した。しかし、北朝鮮のメディアはミサイル発射の成功可否については報じていない。今回の実験失敗で今後のミサイル発射実験に多少の歯止めがかかるのではと予測する向きもあったが、平壌市民が発射失敗を目撃し、しかも、「破片の雨」の被害が出た以上、急いで「成功のメッセージ」を伝える必要が出てきた。そして3月25日に朝鮮中央通信は、首都平壌の順安国際空港で24日、新型大陸間弾道ミサイル(ICBМ)「火星17」を発射したと発表した。この11回目となる新型の弾道ミサイルは、北海道西150㎞の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したが、飛行距離約1100㎞、最高高度約6200㎞で、過去最長となる71分間飛行した。

 北朝鮮が発射したと発表した新型ICBМ「火星17」は、片側11輪の巨大な移動式発射台に搭載され、世界で最も全長が長いとされる。アメリカ本土全域を収める射程に加え、複数の核弾頭を搭載することで脅威を増した。朝鮮労働党機関紙『労働新聞』はミサイル発射の場面や、金正恩が視察する様子を写した写真28枚を掲載し、朝鮮中央テレビも25日の発射時の映像を流したが、映像は金正恩らが「火星17型」の格納庫から出てくる場面から始まり、金正恩は革ジャンにサングラス姿で、格納庫から「火星17型」が運び出される直前のカウントダウンのような場面で金正恩はサングラスを外し、真剣な表情で腕時計を確認している。ミサイルが発射された際には金正恩は笑顔を見せ、兵士らと記念写真を撮る場面も紹介された。

 金正恩は新型ミサイル「火星17」の発射実験の成功を確信していたのだろう。しかし、韓国国防省は「16日にICBМの発射に失敗したことから北朝鮮内で住民の動揺が広がった。これを抑えるため、17年に発射実績のある火星15を急遽打ち上げた」と分析し、24日に発射実験を行ったのは「火星17ではなく火星15」であったとしているが、「火星15」でも「火星17」でも、日本に対する脅威は変わらない。

 北朝鮮はなぜ、ミサイル発射実験を繰り返すのか。それはロシア対応に追われる米国に「自衛の核」保有を誇示するためで、ロシアによるウクライナ侵攻で「核は正義」「核なき国は侵略される」という「核大国が核なき小国を”侵略する」という、“核の恫喝“を知らされたからである。もっとも、ウクライナはかつては核大国であった。ウクライナは1991年のソ連邦解体により独立した後、世界3位の核保有国として核兵器を放棄しない選択肢もあったが、94年12月に米・英・露が安全保障を提供することを盛り込んだ「ブタペスト覚書」を締結し、96年6月に1800余基の核弾頭とICBМ(大陸間弾道ミサイル)を全てロシアに変換・廃棄した。しかし、28年経った現在、米英露が約束したウクライナの安全保障は全く機能していなかった。当時、ウクライナが核を放棄せず、核保有国の地位を維持していたら、ロシアは敢えて侵攻できなかったはずだ。

 金正恩はロシアのウクライナ侵攻を見ながら「大国は必ず約束を反故する。核を手放してはならない」と確信し、ウクライナの核放棄の前例を教訓にして絶対に核を放棄しないだろう。ロシアによるウクライナ侵攻は金正恩の「核保有は自衛」との自説を正当化させた。北朝鮮は最大60の核弾頭を有し、一発のICBМで多弾頭を搭載できる能力を備えつつあると言われており、「米本土への核攻撃能力をさらに高める」との指摘もある。4月には7度目の核実験を行うのではないかと言われている。4月15日は故・金日成主席生誕110周年、4月25日は朝鮮人民軍創建90周年を迎えるからだ。すでに、咸鏡北道・吉州にある豊渓里の核実験場で未使用の第3坑道を使って、核実験を再開するとも言われている。「核こそ正義、核あっての北朝鮮、核でアメリカを恫喝し、対米闘争で優位にたつ」金正恩の「自衛の核」保有論を正当化し、米国に誇示する、軍事挑発は今後ますます強まるだろう。