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「空にはミサイル弾連射、田畑には糞尿弾投下」で体制護持の金正恩政権 宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)

 長年にわたり北朝鮮問題を特に「農業・食糧問題」」を中心に追求してきているが、2022年1月の北朝鮮の動向は、まさに尾籠なタイトルであるが「空にはミサイル弾連射、田畑には糞尿弾投下」で説明できるのではないか。本来ならば、北朝鮮の新年1月1日と言えばこれまでは、最高権力者の「新年の辞」から始まるのだが、昨年に続き今年も「新年の辞」はなかった。北朝鮮の人民は正月三が日を正月気分に浸っているわけにはいかず、「新年の辞」一言一句暗記して、職場や学校、人民班(町内会)での「新年の辞」の討論会に参加しなければならず、さらには、「新年の辞」に盛られた目標貫徹のために、寒さの中での決起集会に参加しなければなかった。

 北朝鮮の金正恩政権は今年の1月は(30日現在)、7回にわたってミサイル発射事件を行った。1月5日に「極超音速ミサイル」とする短距離弾道ミサイル、11日には「極超音速ミサイル」とする短距離弾道ミサイル、14日には「鉄道発射型ミサイル」を、17日には「戦術誘導弾」とする短距離弾道ミサイル、25日には「長距離巡行ミサイル」とするミサイル、27日には「地対地戦術誘導弾」とする短距離弾道ミサイル発射を行い、さらにこれ以上のミサイルの発射はないだろうと思われた30日には、3000㌔以上の長射程ミサイルを高い高度の「ロフテッド軌道」で打ち上げた。今年、北朝鮮によるミサイル発射は7回目だが、低い軌道を取ることで従来の弾道ミサイル防衛(BМD)の突破を目指した過去6回と異なり、30日に発射されたミサイルは従来型の弾道ミサイルで、日本列島は射程圏内に入る。

 北朝鮮はなぜ、ミサイルを連射するのか。2017年の北朝鮮のミサイル発射動向が想起される。この年、北朝鮮は2月に中距離弾道ミサイルを発射したのに続き、3月には中距離弾道ミサイル4発を同時に発射し、「在日米軍基地」を標的にしたと発表した。さらにその後も中距離弾道ミサイル「火星13」を3回発射した。グアムや日本の米軍基地を狙った兵器の発射を繰り返すことで軍事的緊張を高め、同年1月に就任した当時のトランプ大統領を交渉に引きずり出す狙いがあったと言われている。今回の相次ぐミサイル発射は、発足1年となるバイデン大統領に「自国の核ミサイル戦略の向上を見せつけて、北朝鮮と早く交渉のテーブルに着くように」と促すためのものだとする主張もあるが、今のバイデン大統領はウクライナ問題や中国問題さらには国内問題などを抱えており、「北朝鮮を振り返る」余裕はなさそうだ。北朝鮮は疲弊する経済下で、1発当たりの発射費用が100万~150万ドルに上るとする専門家の見解を、米政府系の自由アジア放送(RFA)が2019年に伝えたことがあるが、国際社会からの経済制裁で外貨は急減したが、兵器開発に資金を集中投資している。

 北朝鮮は今年4月15日に故・金日成主席の生誕110周年、2月16日の故・金正日総書記生誕80周年に合わせて、ミサイル発射をおこなうのではないかと言われているが、外交評論家・内閣官房参与の宮家邦彦氏はラジオ番組に出演し「ミサイルは記念日の打ち上げ花火ではありません。彼らは生き残りのため核兵器を開発しているのです。(新年1月にミサイル発射が続いたのは)たまたま試験可能な時期が新年になっただけで、彼らは常に粛々と開発しているのだと思います。生き残りのためです」(日本放送「飯田浩司のОK!Cozy ap!」1月28日放送)。核ミサイル開発を始めとする軍事力強化は、金正恩の権威を高める唯一の手段である。

 さて「田畑には糞尿弾の投下」であるが、北朝鮮の1月は新年恒例の「堆肥戦闘」が始まる時で、都市住民が肥料にするために糞用を集めて農場に持って行くもので、職場、人民班、女性組織、学校などを通じて全住民にノルマが課される。「一カ月間のノルマのある人は1トン、退職した老人は500キロ、匙を持てる者は漏れなくノルマを果たせという号令がかかり、ウンチの争奪戦になっています。もし、外で用を足したら一分以内になくなりますよ」(『アジアプレス』 1月24日号)。朝鮮総連の機関誌『朝鮮新報』(2022年1月19日号8面)は、「年初から増産運動展開」「経済部門で好調な出だし」という記事があるが、この文句は毎年決まった常套句宣伝で、額面通りに理解する必要はない。問題は農業部門に関する記述で、「(前略)9日までに全国的に百数十万㌧の堆肥を田畑に撒いた(攻略)」あるがここでいう「堆肥」とは、人民に目標量を割り当て、要するに人糞の「強制供出」された堆肥である。目標量を納めないと、チャンマダンも利用できないと言われるが、食糧がないため飢えた人民に人糞供出を強要するのである。人民班では貴重な人糞が盗まれないよう歩哨を立てるという。

金正恩は昨年末の朝鮮労働党中央委員会で、農業最優先の方針を打ち出したので、北朝鮮の言う主体肥料こと人糞のノルマ達成のための北朝鮮人民の呻吟と奮闘は続くのである。