shohyo「書評」

映画紹介「燃えよ剣」 三浦小太郎(評論家)

司馬遼太郎はある時期まで、幕末や明治維新、そして日露戦争までの歴史を輝かしい日本近代化の叙事詩として描いた国民作家として脚光を浴び、又、現在はむしろ保守派から、戦後民主主義史観の典型の一つとして(特に「坂の上の雲」「殉死」における乃木将軍への描き方など)が批判されるようになっている。しかし、本質的にこの人は最も良い意味での「娯楽作家」であって、司馬作品に過剰な意味づけをしたり(本人も晩年には文明史家のようにふるまったことも事実だが)増して、歴史「小説」ではなく歴史そのものとして読むこと自体がそもそも間違ったことなのだ。そして、司馬作品で私が今も代表作と思うのは「燃えよ剣」「峠」そして「竜馬がゆく」であり、特に「燃えよ剣」は今も愛読する作品である。この小説が映画化され、私さっそく観に行くことにした。

 

原作「燃えよ剣」の魅力は、新選組、特に土方、近藤、沖田らを、徹頭徹尾「可愛い不良青年」として描いたことである。もともと司馬の筆は「男の可愛さ」と「滑稽さ」を描くときに最もさえるのではないかと思うが、本作はその良さが最もよく出た作品の一つだろう。

 

武士に憧れた田舎の不良青年たちが、たまたま時代の波に乗って京都に赴き、いつの間にか出世してしまう。そして「もう俺たちはきちんとした侍、身分高きものなのだ、国政にもかかわり天下を動かさねば」と勘違いする近藤勇と、永遠の不良青年で「俺は自分の剣と、昔からの仲間のつながり以外信じねえし、インテリの政治論なんか興味ねえよ」という土方歳三の二人の描き分け方が、実に効果的で、読者には双方に共感を持てるように描き出されている。

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