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「日本列島全体が世界文化遺産だ」 西村眞悟

 十月、青森市の三内丸山遺跡と八戸市の是川旧石器時代遺跡の二つの縄文遺跡を訪れてきた。

我々、昭和三十年代(一九五五~六五年)に中学生であった世代の「日本の歴史」の教科書は、日本の歴史の始まりを、弥生時代からとしていた。つまり、弥生時代に朝鮮半島からの渡来人が稲作農耕を伝えて我が国の文明が始まった。それまでは、縄文時代という狩猟採集生活の定住地がない文明もない土人が生きている未開の時代だった、と教えられた。

それ故、ある名の知られた政治家は、十年ほど前の得意の絶頂期に韓国に行って、日本の文明は、総て朝鮮から教えられたもので、天皇も朝鮮から渡来した人の子孫だ、これは仁徳天皇陵を発掘すれば明らかになる、と講演したという。まったく、無知もここまでくれば、国辱的だ。

よって、我が国の歴史をさらに遠く太古まで振り返って、我が国の太古に実感をもっておかねばならないと思い、青森の山内丸山遺跡に赴き、数万年前から生い茂っている落葉広葉樹林に覆われた五千年前の先人達が住んだ跡、そして漆の櫛で綺麗に髪を整え貝のイヤリングをした美しい縄文の乙女達がいた広場に佇んで来たわけだ。

実は、近年の我が国の考古学徒の活動は目覚ましく、今日までに北海道から沖縄までの日本列島全域から膨大な数の縄文時代の遺跡が発掘され、それ以前の旧石器時代の遺跡も多数発掘されてきた。

その結果、東京武蔵野大地の関東ローム層の中から、約三万二千年前から三万年前の世界最古の多数の磨製石器(石斧)が発見された。また青森県の太平山元遺跡から一万六千五百前の世界最古の調理した痕跡のある土器片が発見された。さらに、北海道函館市の縄文集落にあった土癀墓の痕跡から、九千年前の漆を塗った赤い糸で編んだ装飾品が発見された。それは髪飾り、腕輪そして肩当てであった。さらに福井県鳥浜貝塚から一万二千六百年前の赤色漆塗櫛が発見された。これは世界最古の漆塗製品である。この漆はDNA分析で日本固有種であることが判明している。このように日本列島からは、世界最古の土器と磨製石器と漆製品が発見されている。このことは、日本列島が太古の世界最先端技術を生みだしている地域であったことを示すものだ。

また、北海道洞爺湖町の入江貝塚からはポリオ(筋萎縮症)にかかりながら介護を受けて二十歳くらいまで生きた人の骨が出土している。また青森県の大石平遺跡からは縄文時代の親が一歳前後の子供の手や足を粘土に押しつけて手形や足形をとり、それを焼いて固めた土版が出土している。親の子供に対する、今も太古も変わらない情愛が滲み出たものだ。

よって、この度、北海道と北東北の十七の一万五千年前から二千四百年前までの縄文時代遺跡群が世界遺産に登録されたが、その理由は次の通りである。即ち、一万年以上のも長期間継続した狩猟、漁労、採取を基盤とした世界的にも希な定住社会であること、農耕社会にみられるように土地を大きく拡大させることなく、永続的な狩猟、漁労、採取の生活の在り方を維持したこと、子供の手形や足形、遮光器土偶、環状列石の遺構で明らかな精緻な精神文化を伝える類い希な物証があることだ。

そこで、今一度、日本列島全域に広がる縄文遺跡群を振り返り確認しておかねばならない。北海道と北東北の遺跡群だけが、世界遺産登録の理由を持っていて、他は持っていないのか。私の判断は、次の通りだ。北海道と北東北だけではなく、日本列島全体の縄文遺跡群が、世界遺産登録に値する世界的にも希な狩猟、漁労、採取の生活を維持する定住社会であったことを示している。我が国の縄文遺跡群に闘争(戦争)の痕跡はない。一万年以上、平和な縄文日本があったのだ。

では、この、世界的にも希な定住生活を続けていた縄文人達は何処に行ったのか。その答えは、彼らは何処にも行かず、現在の我々の血の中にいる、ということだ。即ち、彼らは日本列島から外へ出て行かなかった。

現生人類(ホモ・サピエンス)は、約二十万年前にアフリカ大陸に出現した。そして、アフリカからユーラシアに進出して西と東に向かう群れに分かれ、また南のインド・オーストラリアに向かう群れに分かれた。そのなかで、ユーラシアをひたすら東に向かう人々が極東の日本列島に辿り着いた。そして彼らは、一万年以上の間、狩猟と漁労と採取で定住できる日本に来たので日本列島から外に出る必要は無かった。

また、ひたすら東に向かうということは、太陽が昇る旭日の方向に向かうということだ。アゼルバイジャン共和国のカスピ海の西岸のコブスタンに、二万年から五千年前までの間に岩に刻まれた膨大な絵がある。その岩絵のなかにカスピ海を東に向かう船が描かれているものがあり、その船の尖端には明らかに「旭日旗」が刻まれている。この船は、日本人の先祖の船かも知れない。日本人は、数万年にわたって、旭日の方向に進んだ人々だ。

従って、「日章旗」と「旭日旗」は、日本民族の血に根ざした旗である。