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【憂国の直言】 林外相は韓国に一ミリも譲るな 松木國俊(朝鮮近現代史研究所所長)

 第二次岸田内閣で外相に就任した林芳正氏は、11月11日外務省で開かれた記者会見で、「韓国は重要な隣国だ。非常に厳しい状況にある日韓関係をこのまま放置するわけにはいかないというのが私の考えだ」と述べた。

 この発言は極めて軽率かつ有害である。「このまま放置できない」ということは「日韓関係を改善するために日本が譲歩する」というシグナルになるからだ。当然韓国側は「放っておけば日本が歩み寄ってくる」と読んだに違いない。

 過去の日韓関係を振り返れば、韓国がいかに日本を侮辱し、無理難題を突き付けて来ても、「友好関係の維持」を最優先する日本側が折れて謝罪や譲歩を繰り返してきた。だが譲れば譲るほど韓国側は増長し、日本の誠意も全て裏切られ、今日の最悪の日韓関係に至ったことを我々は忘れてはならない。

 慰安婦問題では韓国側が「強制連行を認めなければ韓国の世論が納得しない。日韓友好のために是非認めて欲しい」と迫ってきた。日本政府は安易にこれを受け入れ、韓国の要求に沿った「謝罪文」を作文した。時の金永三大統領も事前に文面に目を通し、「これで最終解決とする。補償も必要ない」という韓国政府の確認を取ったうえで、1993年8月に発表したのが「強制連行」を認めた「河野談話」であった。自民党の「河野談話検討チーム」の調査でその経緯が明らかにされている。

 ところがどうだろう。解決どころか、ここから韓国による「慰安婦問題」追及が本格化した。韓国の目的は日本政府を騙して強制連行を認めさせ、日本の国際的地位を引き下げ、外交的に優位に立つためのカードを手にすることだったのだ。

 「河野談話」は「強制連行があった証拠」となり、韓国は官民を挙げて「日本は性奴隷国家」だったと世界に喧伝した。さらに世界各地に慰安婦像や碑を建て、国連にも慰安婦問題を持ち込んで対日非難決議を出させている。日本外交の完敗である。

 1995年には村山富市首相がアジア女性基金なるものを立ち上げ、その「よびかけ文」には「十代の少女までも含む多くの女性を強制的に『慰安婦』として軍に従わせたことは、女性の根源的な尊厳を踏みにじる残酷な行為でした。」と書いている。村山首相やよびかけ人達は韓国の「嘘」を信じて、我々の祖先を徹底的に貶めたのだ。結果的にこの基金は慰安婦問題の解決に何ら役に立たず、逆に「日本の残虐行為を具体的に日本政府が認めた」という事実のみが世界に広がった。

 さらに2015年末、日本政府は告げ口外交を続ける朴槿恵大統領に配慮し、韓国政府と協議の上、慰安婦をめぐる「日韓合意」を世界に発表した。ここでも安倍首相が「お詫び」を表明している。この合意は最終的に韓国側によって破棄され、「日本の首相がお詫びした」という事実だけが韓国側の「戦利品」として残った。河野談話を補強した形となり、安倍氏の最大の失策と言えよう。

 歴代首相も外務省も外交の目的が「隣国と仲良くすること」と考えているのではないか。もしそうなら日本の国益をどんどん譲ればよい。北方領土を放棄し、竹島は韓国に、尖閣列島も沖縄も中国に献上すれば、相手国は喜んで日本と仲良くしてくれるだろう。しかしそれでは最後は日本国がなくなることになる。

 外交は国益の分捕り合戦であって「譲り合い」ではない。そこに「誠意」などを持ち込めば相手側の思うつぼとなる。まして「謝罪」は完全敗北だ。謝って済む外交などありえない。謝罪すればそこから責任追及が始まるのが世界の常識なのだ。

 現在、韓国司法は日韓間の条約を無視して日本企業に補償金の支払いを命じ、韓国内で被告企業資産の現金化手続きが進んでいる。だがここで日本が折れて謝罪し、少しでも金をだせば、「補償問題は完全かつ最終的に解決済」という日本側の立場は「蟻の一穴」から崩れる。韓国にすれば「植民地支配の落とし前がついていない」状態となり、日本は永久にゆすり・たかりの対象となるだろう。

 相手は大陸的「騙し合い」交渉術に長けた韓国である。これから徴用工問題をめぐり「日韓友好のため」とあらゆる甘言を弄し日本に譲歩をせまるに違いない。しかし日韓関係悪化の原因を作ったのは韓国であり、すべての非は韓国側にある。譲歩の余地など全くない。日韓関係を健全な関係に戻すには、日韓関係を「放置しない」ではなく「放置」して猛省を促す以外にないのだ。林外相は日本の国益を守るために、韓国には一ミリも譲らないという決意を今こそ内外に示すべきである。