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金正恩が軍統帥権を喪失か、影武者説まで現れる 宮塚利雄 (宮塚コリア研究所所長 元山梨学院大学教授)

 アフガンからの米軍撤退に北朝鮮は8月20日以降、連日のように米国批判を続け、8月24日に北朝鮮外務省は「民主主義モデルをアフガンに強要しようとした米国の20年間の努力が失敗に終わった」と、米軍の撤収を「米国の没落」と言い放った。北朝鮮にとって在韓米軍撤退は宿願であり、これまで北朝鮮側から韓国側に飛ばされてきた多くのビラには「駐韓米軍撤退」の文字が記されていた。

北朝鮮にとって軍撤収に伴うアメリカの混乱に乗じて、挑発行為をエスカレートしてくると予想されるが、このような最中、朝鮮中央通信は21日に、金正恩用箋労働党総書記が平壌市内を普通江沿いの住宅区の建設現場をしたと報じた。

金正恩の動静が伝えられるのは7月以来で、北朝鮮は8月16日に始まった米韓軍事演習に強く反発し、金与正朝鮮労働党副部長が8月1日に「(先の南北通信線復旧により)信頼回復の歩みが再び進むことを願う北南首脳の意思をひどく傷つけ、北南関係の行く末をさらに曇らせるつまらない前奏曲になるだろう」と警告し、中止を求めていたのだが、金正恩の視察報道は軍事部門ではなく、住宅建設現場であった。これは一体どういうことか。

伝えられるところによると、金正恩は人民生活の向上を掲げており、不足する住宅の建設に力を入れており、この住宅区を建設着工などの際にも視察しており、金正恩は「すべてが不足している困難の中」でも建設が順調に進められている」として、「大きな満足の意を示した」とのこと。金正恩は昨年も、平壌市内に近代的な大病院を建設すると喧伝したが、工事関係者や資材不足などで未だに完成していないのに、新たな住宅区の現場視察とは解せない。韓国の知り合いの北朝鮮研究者によると、「金正恩は軍の統帥権を喪失したのではないか」とのこと。

その理由として、金正日の「先軍政治」時代には、36年間も党大会が開催されなかった労働党だが、金正恩時代に活発化している。これは必然的に労働党、組織指導部の浮上をもたらした。金正恩はいつの間にか首領・最高司令官から、頻繁に開催される党集会の司会者になった、というのである。

私は以前「金正恩は軍と党の操り人形か」と説いたが、軍と党の熾烈な争いが、金正恩を米韓軍事演習中に軍部隊の視察・激励ではなく、住宅区の工事現場の視察に向かわせたのか。これを証明するものとして、改定された党規約では「人民軍は首領の軍隊」ではなく、「党の革命を武装で擁護し、党の指導を先頭に担いで進む、朝鮮労働党の革命的武装力」と規定し、さらには、「労働新聞」の「先軍節」(8月25日)特集報道では「朝鮮労働党の血筋を引き継ぎ、党中央委員会を武装で擁護する。

党と国家の苦情、人民の痛みを軽減する、真の党の軍隊、人民の軍隊」と宣言したことからも、金正恩が軍統帥権を喪失したことを伺い知ることができる。さらにそれを裏付けるかのように、9月9日の建国73年の記念日に非正規軍部隊を中心とした軍事パレードを実施したが、金正恩は演説しなかったばかりでなく、登場した金正恩は偽者(影武者)ではないかと噂されるほどであった。