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スポーツによる健康立国へ 特別インタビュー1 神奈川大学人間科学部教授・大竹弘和氏

 

7月東京オリンピックの日本チームの目標メダル数は30個。選手達は長年の成果を今こそ発揮すべき時だが、コロナ禍の中でのパフォーマンスはさぞ厳しいと同情を禁じ得ない。日本はスポーツ大国を目指しての施策を行っているが、その実態に関する問題点・改善点に関し大竹弘和教授にインタビューを行った。

同教授は人間科学という新しい分野の権威であり、2019年にはゼミ生を率いて、24大学・61チームの中で笹川スポーツ財団の優秀賞・スポルテック賞を受賞、公共政策(官民連携)を通してスポーツの普及発展に寄与するプロフェッショナルである。

 

◆スポーツをすることで、どういう効果効用が得られるでしょうか。

 個人に与える効果(利益)と社会に与える効果(利益)の二つの側面から考えます。

健康維持増進や仲間つくり、自己実現や達成感、楽しみなど。これらは個人に対し生涯にわたり大きな利益をもたらしてくれます。

一方、地域で展開されるスポーツはコミュニティ形成やまちづくりに貢献し、世界的にも大会などを通じての国際交流や経済的効果も大きいですね。このように、多様な効果のあるスポーツを学校という枠の中だけで展開するのは勿体なさすぎます。中・高生など青少年のスポーツ活動が、地域の人たちと共に活動することが可能になれば、さらなる展開が出来ることでしょう。

 

◆スポーツに関わる現状・参加率は、年代により異なってきますか。

スポーツに関われる事情は年代によりかなり変わります。一般的に20代30代のスポーツ実施率は低調です。健康体力を過信しがちで、同時に仕事の最前線に関わる年代ですから、どうしても運動ができる時間が少なくなります。それでも、それまでの体力温存がありますから乗り切れてしまう。そして50代~70代ぐらいになると体力も衰え健康不安にも相まって、そこから改めて体力作りに目覚めるという流れがありますね。

 

◆改善点としての提言を頂けますか。

学校教育の問題点として、精神や人間形成など教育的意義を強調し、スポーツを楽しみや健康づくり、生涯にわたって継続する必要性を教育してこなかったことを指摘しておきたいです。体育教員を目指す大学生の多くは部活動で優秀な選手を育てることを夢見ている者も多く、当然少数精鋭主義の選手育成に主眼が置かれている部活動も少なくありません。また年間を通して同じスポーツを行っているのが日本の現状で、季節や仲間などに応じて多様なスポーツを経験する欧米とのスポーツ教育との大きな違いです。

それらを改善するためには、

 小学校では「体を動かす楽しみを知り、遊びとしてのスポーツの素地を育てる」

 中学校では「努力の結果と成果を確認する、上達や成果を出す喜びを知る。」

 高校では「自分で選択し、生涯を通してスポーツとの付き合い方を計画する」

などを学校教育の中で教えることが重要で、部活動の選手育成はその延長線上に位置付けるべきです。

 今後、大学や企業などは「健康経営」にシフトしていくことが必要です。

 大学のスポーツ施設は充実していますが殆どは競技者専用となってしまい、一般の学生の利用はごく稀です。キャンパスそのものがひとつの大きなスポーツクラブのようになり、すべての学生がスポーツを楽しめるようにする経営的視点が必要だと考えています。また企業も近隣のフィットネスジムや公共スポーツ施設との提携で社員の健康経営を推進する時代となってきました。

 これらを実現するには、スポーツを経営するという視点が重要で、学校施設を含む公共施設整備などを「官民連携」で推進することが欠かせません。

 

 「スポーツは楽しむためにある。欧米では季節や友人により様々なスポーツを楽しむ人が多い。日本では教育と競技を使い分け、教育活動の一環としているので、国が推奨する生涯スポーツ教育とは程遠くなっているのが現状。学校教育でスポーツの楽しさを学び、生涯楽しめることが必要」(大竹教授・談)