shinkenペマ・ギャルポの「真剣・愚見」

【ペマ・ギャルポの「真剣・愚見」】 やまと新聞の読者の皆さん ペマ・ギャルポ(拓殖大学国際日本文化研究所教授)

日頃からチベット問題に関心を持っていただき、またご支援を様々なかたちでいただいていることに感謝申し上げる。今回は、亡命チベットの動向について、若干のご報告をさせていただく。

皆さんも新聞等でご存じかもしれないが、私たちがインドに亡命して60年が過ぎた。この間にダライ・ラマ法王のご指導の下、世界26か国に散らばっているにも関わらず、自分たちの民族のアイデンティティを保ちつつ、世界中にチベットの悲劇について訴えてきた。本国チベットは、残念ながら中国共産党独裁政権の下、かつて7,000以上あった寺院は破壊され、チベット仏教は中国当局によって破壊され、120万の人々が命を奪われた。北京政府は、最近チベット白書なるものを発表し、彼らが言う「解放」、事実上の侵略によってチベットが飛躍的に発展し、チベットの人々は幸せになって、習近平が言う「大中華民族

」の一員として幸せに暮らしていると宣伝をしている。確かに、鉄道が敷かれ中国の軍人と工作員が隅々まで配置され、またチベットの資源なども発掘され、チベット地域においては表面的にはGDPも飛躍的に上がっているが、これはあくまでもチベットを搾取してのことである。鉄道が敷かれても、現地のチベット人が潤うことがなく、逆に人口的侵略をより確立され、同化政策が進んでいるのが実態である。鉄道が敷かれても、立派なホテルがたくさんできても、年間に2,000万人の観光客が訪れても、一般チベット人の生活は当局が言っているような豊かさを堪能しているどころか、24時間体制で監視され、個人の信仰の自由、思想の自由、言論の自由が奪われている。今、チベットの本土においては、同化政策が一層進んでいるのは紛れもない事実であり、また昨年だけでも50万人の働き盛りの人々はチベットから中国各地に強制的に連行され、名目上はチベットの貧困をなくすためとの口実で強制労働者として狩り出されている。チベットにおいては、かつて国際法律委員会が認めたように、計画的・組織的ジェノサイドが行われ、そして、今は文化的ジェノサイド、つまり同化政策(シナ化)が急ピッチで進んでいる。

上記のような状況の中において、国内においてはもはや5名以上の人間は集まることも禁止され、デモなどはできないような状況の中において、自らの身にガソリンをかけ、焼身抗議をもって抵抗している。今、話題になっているウイグルやモンゴルの状況と変わらない民族弾圧が進行中である。

亡命先においては、ダライ・ラマ法王が長期的展望に基づいて、チベット人の社会において民主化とチベットの若者の教育に努め、この度、第3代目の直接選挙による亡命チベットの社会における新しい首相(大統領)が選ばれました。このことに関しては、世界中が注目し、多くのメディアでも大々的に報道された。これは、ダライ・ラマ法王とチベット難民の努力によって、自ら治める能力があることを示したものと世界各国から高く称賛されている。この度、2011年ダライ・ラマ法王が政治的権力を民主的な指導者に移行してから5回目の選挙で3番目の指導者として、ペンバ・ツェリン(54)が5月27日に就任し、ダライ・ラマ法王の祝福と国民の大多数の支持の下、次の5年間、チベットの大義を全うするため、先頭に立つことを宣誓しました。同氏は、チベット青年会議の幹部として、また亡命チベットの議員・議長を歴任したほか、亡命政府の政策研究所の所長などを経験した有能な政治家・愛国主義者として、チベットのために全力を注ぐことを宣言した。アメリカ合衆国政府、台湾の外務大臣のジョセフ・ウーなど世界各国の指導者からもお祝いと励ましのメッセージをいただいている。我が日本からもチベット議連の下村博文会長や安倍前首相からも暖かいお祝いのメッセージをいただいている。ペンバ・ツェリン氏は、北京政府とチベット問題に関して、対話を通して平和的な解決を模索したいと言いつつも、中国の悪政に対しては闘う姿勢を明確にし、今後も世界各国のチベット支援団体と連帯を強化し、チベット人の大義のために全力を尽くすこと、中国が破壊しつつあるチベットの文化・伝統の保全・発展のためにチベット民族が団結し、今後もより一層力を尽くすために海外にいるチベット同胞の生活福利を促進していくことを力強く訴えている。チベットの闘いも、ペンバ・ツェリン新首相(大統領)のように亡命先で生まれた人たちの世代がチベットのために命を懸けてきた先輩たちの意思を繋いでいけることを証明している。北京政府が60年以上、軍事力でチベットの領土を抑えても、チベット民族が自らチベットの主になる決意を継承していることを示しており、決して武力によって精神を奪うことができないことを示している。現在、いわゆる中華人民共和国は、軍事的・経済的に巨大化し、今や世界の覇権を願うようになったにも関わらず、チベットが正義であり、最終的には正義と真実が勝つとチベット人は信じており、今、北京政府が次のダライ・ラマ法王の選考に関与していることに対しても、真正面から拒否し、世界に対しても中国の不条理な目論見を阻止するよう訴えている。幸いにもアメリカ合衆国の議会をはじめ、EUなどもこの訴えに対し応えて、中国がチベットの伝統と宗教に干渉することを許さないという決議などが採択されている。今月中には、新しい亡命政府の議会と内閣が誕生し、チベットは身を引き締めて新たな段階で巨大な中国に対し立ち向かっていくと思うので、皆様の継続的なご関心とご協力に期待する。