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「日米台同盟による東アジアの安定確保へ」 西村眞悟

四月十六日のホワイトハウスにおける日米首脳会談で、菅義偉総理とバイデン大統領は、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに両岸問題の平和的解決を促す」との文言を共同声明に盛り込むことに合意した。「台湾」が日米共同声明に盛り込まれるのは、昭和四十四年の佐藤栄作総理とニクソン大統領の会談以来初めてである。従って、この度の日米共同声明は、画期的だと言えるが、他面、我が国は、昭和四十七年九月の日中国交正常化から約五十年間、中共に気兼ねして「台湾」を見て見ぬ振りをしていたとも言える。我が国にとって、台湾の重要性は、この五十年間、不変であった。従って、香港や南シナ海において力による覇権拡大の動きを露骨に始めた中共の台頭という現実に直面して、日米は「台湾」に言及しなければならなくなったということだ。

とはいえ、この度、日米共同声明に「台湾」を明記した以上、我が国は、改めて、台湾とは何か、を確認しなければならないと思う。そうしなければ、我が国の国防が成り立たない。即ち、今まで日本政府が「日本の国防」を真剣に考え取り組んでいなかったから、台湾を無視することが出来たということだ。

まず、我が国と台湾の地理的関係を見れば、日本とアメリカは、台湾に対して等距離にあるとは到底思えない。アメリカは、台湾の問題を、「自由と民主主義を守る」という視点から眺めることが出来るかも知れないが、我が国にとって台湾は、まさに自国の国防の問題、つまり我が国の自衛権の問題である。

七十六年前の大東亜戦争末期において、我が国の大本営は、アメリカ軍は、沖縄本島よりも、先ず台湾に侵攻してくると予測して沖縄よりも台湾の軍事力を増強した。何故なら、アメリカ軍が台湾を奪うことは、全日本の屈服に直結すると判断したからだ。この大本営の判断は適切である。そして、現在においても、中共が台湾を奪えば、日本は存立の危機に直面する。即ち、台湾を中共から防衛することは、我が国自身の「自衛権行使」の領域にある。

ここで国際法における自衛権のリーディングケースである「デンマーク艦隊引渡請求事件、当事国 英国対デンマーク、一八〇七年」を振り返る。

この事件の前提事実は次の通り。ナポレオンは、ヨーロッパにおける覇権を確立する為に、イギリスの強大な海軍力を撃滅することを策した。しかし、一八〇五年十一月、トラガルファー海戦において、フランス・スペインの連合艦隊はイギリス海軍に大敗する。この結果、中立政策をとっていたデンマークの海軍力が、イギリスに次いで世界第二位になった。ここでイギリスは憂慮した。何故なら、ナポレオンの軍隊はデンマークの隣のドイツに駐留しており、そのナポレオン軍が陸路デンマークを攻略することは容易で、その時は、デンマークの艦隊がナポレオンのイギリス侵略の手段に用いられるからだ。

それ故、イギリスは、デンマークにイギリスと同盟関係に入る提案をしたが、デンマークは応じなかった。そこで、イギリスは、ナポレオンが行動を起こしてデンマークを占領する前に、武力によるデンマーク艦隊の接収を決意し、一八〇七年八月十六日よりイギリス艦隊は沖からコペンハーゲン市内を砲撃してデンマークを屈服させ、七十六隻のデンマーク艦艇を曳航してコペンハーゲンから退去してイギリスに接収した。

イギリスは、この行為を自衛(self-defence)に基づくものと主張し、イギリスの学者は支持し、大陸諸国の学者の多くは否定して、長らく議論の種になってきた。学者の議論はともかく、現実にイギリスは自衛権に基づいて、デンマークに最初は同盟関係に入ることを要請し、拒否されれば武力でデンマーク艦隊を接収して自国をナポレオンから守り抜いたのだ。そして、現在、このケースは国際法の自衛権に関するリーディングケースとなっている。

また、この十九世紀初頭のイギリスの行動は、十六世紀の海賊上がりの海軍提督でスペインの無敵艦隊を打ち破ったキャプテン・ドレークが言った、イギリスの防衛ライン(自衛権発動ライン)を忠実に守ったものだった。彼は言った。「イギリスの防衛ラインは、イギリスの海岸線ではない、海の上でもない、大陸の敵基地の背後だ」と。

では、イギリスと同じ海洋国家である戦後の我が国の自衛権に関する議論のレベルはどうか。馬鹿馬鹿しい話であるが、我が国は、「専守防衛」という思考停止だ。つまり、海の向こうの情勢には関与せず、敵が我が国の海岸から上陸してきた時に自衛権が発動されるということで思考を停止してきた。

しかし、日米共同宣言に「台湾」を明記した以上、はっきり認識しなければならないことは、海洋国家である我が国の防衛ライン(自衛権発動ライン)も、我が国の海岸ではなく、海の上でもなく、大陸の敵基地の背後だということである。従って、「専守防衛」など、誰が言いだしたのか知らんが、こんな言葉は死語にして、捨て去らねばならない。

その大陸にいる中共の習近平の「中華民族は世界の諸民族の上に聳え立つ」という妄想を思えば、明確に、台湾を守ることは我が国を守ることである。従って、台湾の第4世代戦闘機群が中共のものになって我が国攻撃に使用されることがないように、我が国がイニシアティブを取って、我が国とアメリカと台湾の三国が、日米台同盟関係に入ることは、東アジアの海洋に自由と民主主義の強固なトライアングルを構築する非常に有効な価値ある国策であり、諸民族の保全と東アジア安定への方策だ。