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島根県「反日県議会」との愛国者たちの闘いは続いている(上) 三浦小太郎(評論家)

島根県と言えば、一般的には出雲大社をはじめとする様々な神社が建つ、古代から続く連綿たる日本の歴史を想起させる、風光明媚な観光名所に富んだ県である(神社だけではなく足立美術館の日本庭園は絶対に訪問すべきスポット)。一方、政治的には日本固有の領土である竹島を韓国府に不当占拠され、平成17年以後「竹島の日」が制定された県でもある。

いずれにせよ、おそらく県外の人たちからすれば、この島根県は日本の伝統と歴史を大切に思う県民性を持ち、かつ政治家もそうであるはずだと想像しているはずだ。その島根県議会で、それも自民党も含めた圧倒的多数の賛成により、日本が韓国に対し慰安婦問題で謝罪することを事実上求めた意見書が採択されているとは簡単には信じないだろう。しかし、これは紛れもない現実なのである。まず、平成25(2013)年に採択されたその意見書全文を読んでいただきたい。

日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書

日本軍「慰安婦」問題は、女性の人権、人間の尊厳にかかる問題であり、その解決が急がれています。

この問題について、日本政府は1993年「河野談話」によって「慰安婦」への旧日本軍の関与を認めて、歴史研究、歴史教育によってこの事実を次世代に引き継ぐと表明しました。

その後、2007年7月には、アメリカ議会下院が「旧日本軍が女性を強制的に性奴隷にした」として、「謝罪」を求める決議を全会一致で採択したのをはじめ、オランダ、カナダ、フィリピン、韓国、EUなどにおいても同様の決議が採択されているところです。

また、日本政府は、本年5月31日、国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会より、「公人による事実の否定、否定の繰り返しによって、再び被害者に心的外傷を与える意図に反論すること」を求める勧告を受けるなど、国連自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会、ILO専門家委員会などの国連機関から、繰り返し「慰安婦」問題の解決を促す勧告を受けてきているところでもあります。

このような中、日本政府がこの問題に誠実に対応することが、国際社会に対する我が国の責任であり、誠意ある対応となるものと信じます。そこで政府におかれては以下のことを求めます。

1 日本政府は「河野談話」を踏まえ、その内容を誠実に実行すること。

2 被害女性とされる方々が二次被害を被ることがないよう努め、その名誉と尊厳を守るべく、真摯な対応を行うこと。

以上、地方自治法第99条の規定により、意見書を提出します。

平成25年6月26日

島根県議会

もちろん、この時期報じられていたように、同様の意見書は島根県だけではなく全国の自治体で提出されていた。意見書には法的拘束力はないが、海外の日本を貶めようとする運動家によってさまざまな形で利用されていたのだ。これらの意見書提出は各議会の自発的な行動というより、新日本婦人の会を中心とした、日本共産党系の市民団体が、他団体や議員と連携して各議会に意見書採択のための請願文を提出、意見書採択に持ち込まれる例が多かったようだ。しかし、その中でも、この島根県のケースはやや特殊だ。

「すでに43地方議会が『慰安婦意見書』採択 裏で『嘘の歴史』をバラ撒く日本のロビー団体を追う」(雑誌SAPIO2014年5月号掲載記事」)によれば、この意見書を採択することを求める請願文が、新日本島根県婦人の会会長山崎泰子、並びに島根県母親大会連絡会事務局長池淵敬子により県議会に提出された。協力した民主党の白石恵子議員は、共産党、公明党各議員らと請願者との面会をセットし、上記意見書が6月19日、県議会総務委員会に付されている。

当時の島根県議会は、定数議席33のうち自民党議員が27議席を占めていた。しかし、その日のうちに(委員長は自民党)可決され、26日の本会議に上程。意見書は本会議で採択され、議長の五百川純寿議員は「規律多数」で直ちに可決した。この時、県議会で多数を占める自民党議員はほぼ全員賛成に回っている(故小沢秀多議員一人は棄権)。何と自民党は、反対すればペナルティを科すという事実上の党議拘束をかけている。事実上この意見書は、自民党により成立したも同様である。

そして、他自治体では、朝日新聞がこれまで慰安婦強制連行の証拠の一つとして挙げていた吉田清治証言を否定した2014年以後、意見書を撤回、もしくは修正した新たな意見書を発表するなどの姿勢も見られるのだが、島根県議会は現在令和2年(2020年)に至るまで、一切そのような修正に応じようとしない。以下に紹介するのは、この意見書に対し、翌平成25年(2014年)以後、現在まで続く、島根県民有志と県議会の闘いの記録である。

直ちに提出された第一回請願文

島根県議会における自民党の不自然な行動に対しては、当初から与野党間の裏取引があったのという声が挙がっていた。この意見書決議と同時期に行われた県議会議長選挙において、自民党の五百川純寿議員が何と野党からの賛成も得て圧倒的多数で承認されている。他にも様々な噂が現地ではささやかれているが、それについては本稿の趣旨とは外れるのでここでは触れない。しかし、党利党略や、利権や取引が国家の根源である歴史問題よりも上に置かれるなどはあってはならないはずである。

この意見書に対し、翌平成26年(2014年)6月の段階で「日本を愛する島根女性の会」が県議会議長あてに公開質問状を提出している。この年の8月には、朝日新聞がこれまで慰安婦強制連行

の根拠の一つとしていた吉田清治の証言を誤報(正確にはねつ造だが)と認め、慰安婦問題をめぐる歴史論争は大きな曲がり角を迎えていた。そして、「島根女性の会」の運動を発展させる形で、豊田有恒島根県立大学名誉教授、倉井毅日本会議島根県会長、画家で教育評論家の野々村直通各氏により、この年12月「平成25年6月26日付で決議された〝日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書″の撤回決議、並びに国に対し「慰安婦」問題に関する適切な対応を求める請願」が議会に提出される。以下、全文をこれも引用する。紹介議員は無所属の成相安信議員。

「朝日新聞はいわゆる「従軍慰安婦強制連行」の根拠として、1982年9月から32年間に渡り報道してきた『吉田証言』を、本年8月5日、6日の同紙の「慰安婦報道検証記事」において虚偽であると判断し取り消しました。また1991年8月の記事にも「挺身隊との混同」があったと認めています。

91年の当該記事の中では【「女子挺身隊」の名で強制連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた女性】が取り上げられていますが、その記事中の「強制連行」も事実に基づくものではなく朝日新聞の誤りでした。

一方、本年2月20日、衆議院予算委員会において「河野談話」作成時の石原信雄官房副長官が陳述した証言が契機となり、菅義偉官房長官の下で「河野談話作成に関する検討チーム」が設置され、本年6月20日、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯 河野談話作成からアジア女性基金まで」の「政府検証報告書」が発表されました。

「政府検証報告書」からは「慰安婦強制連行」という虚構に対して、当時の日本政府が「強制性」については譲歩してはいないものの、事実関係に踏み込んだ反論を一切しないまま謝罪し続け、河野談話に至るまでの交渉は、一貫して韓国の主導のもとに行われた経緯が明確となりました。

朝日新聞による歴史的事実を踏まえていない「虚偽の慰安婦報道」と「河野談話」は、今日の日韓関係悪化の一因であり、米国や国連等において日本国および日本人の名誉と尊厳を不当に貶める活動に口実を与えています。

今や国内外に向けた朝日新聞の誤報における対処の仕方にも批判が相次いでおり、また作成過程に問題があったことが明白となった「河野談話」を現内閣が継承することにも疑問の声が上がっています。

以上の点から、島根県議会により平成25年6月26日に決議された、〝日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書″は決定的な根拠を失ったというべきであります。

そこで下記の通り、上記意見書の撤回と、国に対し適切な対応を求める意見書を提出して下さい。

1. 平成25年6月26日付で決議された〝日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書″を撤回してください。

2. 〝1.を踏まえ″以下の点を国に求め意見書を提出して下さい。

①更なる真相の究明を進め、関係諸機関には慰安婦問題について正しい理解を促す努力を求め、国内の世論を統一すべく正しい広報を行い、国際社会に向けては、これらのことを積極的に発信し

ていくこと。

②海外において邦人が被っている不利益や被害についてはその実態を把握し速やかな対応を取ること。

③戦後70年の来年を目途として、これまで国際社会の中で誤解によって毀損された先人や我が国の名誉を回復するために、内閣の決議を踏まえた内閣総理大臣としての新たな声明を出すこと。

以上

「日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書」と読み比べてみれば明らかなことだが、前者の主体が完全に「国際社会」、つまり日本を批判する外部の声の立場から書かれているのに対し、この文書は、あくまで日本側の責任と立場に根差している。

これは重要な点であって、韓国側の姿勢を批判するのでも歴史観の相違を論ずるのでもなく、あくまで、日本側のマスコミの誤報、安易に政治的妥協を求め歴史に対する責任を認識しなかった日本政府の姿勢を批判した上で、地方自治体は同じ日本国の政治家としてこの過ちを糾し日本国と国民に現実に加えられている誤解や被害を打ち消すことが責務だと述べているのだ。この問いは、国政、地方議会を問わず、日本国の政治家ならば逃れられない問いのはずだ。

しかし、島根県議会総務委員会は、この請願書を不採択とした。その理由はほぼ二点にまとめられる。「慰安婦が存在し売春行為があったこと、それ自体が女性への人権侵害である」「日本政府が現在に至るまで『河野談話』を見直さない以上、地方自治体はその認識に従うしかない」くどいようだが、これは自民党を含む総務委員会8名中7名(反対した1名は意見書を提出した成相議員)の意見である。

今回採択されてしまった意見書が主張する、日本国政府が「被害女性とされる方々が二次被害を被ることがないよう努め、その名誉と尊厳を守るべく、真摯な対応を行う」べきかどうかという問題とはかけ離れた議論だ。強制連行という文章は明記されていないが、「二次被害を被ることがないよう努める」とは、簡単に言えば、韓国側(というよりむしろ日韓の運動家)の主張する「慰安婦は強制連行された性奴隷」という主張を否定するなということ以外を意味しない。これは、日本側が一切、慰安婦強制連行説に反論するなということだ。

平成28年(2016年)11月には、島根戦中派の会として、大正生まれのいわゆる戦中派の方々4名が、再び「平成25年6月26日付で決議された〝日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書″の撤回決議を求める請願」を行っている。ここでは大東亜戦争という日本近現代史の大事件を現場で生きることによって時代を支えてきた人たちの志がみなぎっている呼びかけがなされていた。その一部を紹介する。

(前略)1.平成25年6月26日付で決議された〝日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書″には2007年7月のアメリカ議会下院決議のことが明記されています。

この決議案はクマラスワミ性奴隷報告の事実認定を基にしており議員説明用の資料には吉田清治の著書が用いられていました。朝日新聞がその慰安婦誤報について速やかな謝罪と訂正をして

いれば、このような誤解と偏見に満ちた不当な決議が採択されることは無かったはずです。

この一点においても当該意見書を無効としなければ、虚偽が事実として将来の世代に禍根を残すことは明らかであります。(中略)

2.米国では2009年頃から、主に韓国系住民により慰安婦の碑が設置されたのを皮切りに従軍慰安婦像が各地において設置されつつあります。

この事実は現地の日本人社会に深刻な影響を及ぼしています。特に社会的に弱い婦女子はその標的になりやすく陰湿かつ苛烈な虐めにあい、祖国を憎む子供たちさえ出てくる現状だそうです。

現地の日本人の支持者からは、島根県議会の決議に対して「後ろから撃たれているようなものだ」という声さえ聞こえてくると言います。

現在、新たな慰安婦像の建設計画はアメリカをはじめカナダ、オーストラリア、ドイツなど韓国のロビイストの手により国際的な広がりを見せつつあります。

我が国が国家の総力を挙げこの事案に対峙していかなければならない時に、取り返しのつかないジャパンディスカウントに加担してしまっていることを認識してください。

日の丸を背負い海外で国際社会のため、そして我が国の為に真面目に働く方たちを窮地に追い込む行為は、道義的にも許されない深刻な人権問題です。

3.戦死者はいつまでも若い。いや生き残りが日を追って老いゆくにつれ、ますます若返る。慰霊祭の祭場や同期会の会場で、我々の脳裏に立ち現れる彼らの童顔は痛ましいほど幼く、澄んだ眼が眩しい。その前で我々は初老の身のかくしようがない。(中略)戦中派の私達は、初老もとうに過ぎ、自らの死期を感じたとき、どのような顔をして彼らと再会すればよいのか。

陛下は終戦の詔で戦死した者、またその遺族のことを思う時、「五内為ニ裂ク」と仰せられました。

この一語は死よりも遥かにまさる苦しみであり、地獄の業火になかに立って、なお死ぬことのできないほどの極限の苦しみであると考えます。

陛下の大御心に感謝し戦災で亡くなった多くの方々の無念に報いる為には、私達は当時の人達を裁くような愚かな行為をしてはなりません。

陛下は詔でこうも仰っておられました。

「もし感情の激するままにみだりに事を起こし、あるいは同胞を陥れて互いに時局を乱し、ために大道を踏み誤り、世界に対し信義を失うことは、朕が最も戒めるところである」

誰もが辛く悲しい思いをした時代の人間を悪者にして恬として恥じない行為、またそれを看過する行為は、この御言葉に背く行為であると考えます。

最後に、我々は先の大戦で戦地において落命した多くの戦友の霊を慰め、彼らの無念を思い、そして彼等の名誉を守り抜くために心をひとつにする者たちであります。

我々はこの身を捧げて、我が国が道義国家を目指すための礎となれるならば、無上の喜びであります。以上

ここで請願者たちが昭和天皇の詔を引用しているのは、単なる世代的体験からではない。日本国の歴史に自らが根差していることの責任感を示すものであり、同時に、戦死者を結果的に侮辱する(それは実は労苦を共にした慰安婦を侮辱することに本来つながるのだが)ことが、歴史そのものをわが国から失わせることであることをはっきり認識しているからである。同時に、現在の国際的な日本批判の論調の広がりが、大東亜戦争を「民主主義対ファシズム」といったずさんな二分法でレッテルを貼り、結果として、ソ連のスターリン体制を正当化し、中国で共産党政権を生み出したことの結果であること、それは戦前の日本批判プロパガンダと構造的に共通性を持ち、自らの植民地体制には目をつぶって対日包囲網を敷いた欧米植民地帝国の姿とも無縁ではないことを、歴史を生き抜いた一人一人の立場から訴えていることなのだ。

しかし、この請願書は否決され、提出者の一人で旧軍人の松本良博氏は、当時の産経新聞のインタビューに答えて「日本や戦友の名誉回復のため、撤回してほしかった」「同期の多くが大陸などに出征したが、『従軍慰安婦』という言葉など聞いたことがなかった。日本をおとしめるための戦後の造語だ」と無念の思いを語っている。