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「菅義偉総理の任務は、継続ではなく転換である」 西村眞悟

九月十四日、菅義偉氏が自民党総裁に選出され、十六日の臨時国会で安倍晋三氏に続く第九十九代内閣総理大臣に選出されることになった。政党人として、その志を遂げられることに敬意を表し、まず、まことにおめでとうございます、とお祝いを申し上げる。

その上で、自民党の菅氏を含む三人の候補者による総裁選挙での議論、総裁当選後の記者会見およびマスコミの報道する街頭で呼び止められた街の人々の声に関し、気になること、一点を指摘したい。それは、総て、議論と関心が内向きであったということだ。即ち、武漢ウイルス禍のなかでの経済の低迷の克服、地方の活性化、既得権益の見直し、子育て支援そして少子化対策等々・・・。

そこで、私は次の情景を思い起こした。即ち、幕末に世界の情勢を知った福沢諭吉が、国内政治の状況を見て、我が国を、魚市場のまな板の上に乗せられている貝に喩えたこと、貝は貝殻の内にこもって外を見ない。さらに、幕末最後の老中であった備中松山藩主板倉勝静が、国元から江戸に出てきた藩主顧問の山田方谷に対し、幕府の巨大な城郭の偉容を見せた時、山田方谷が、板一枚下は千仞の海でございます、と言ったことだ。

即ち、我が国を取り巻く内外の情勢は、まことに厳しい。それは、七年以上に及ぶ安倍内閣の時とは全く違う。従って、安倍内閣の「継承」では、到底我が国の安泰は期せない。振り返れば、安倍内閣は、内において、あの悪夢のような民主党政権に対して満ちあふれる国民の嫌悪の中から、国民の期待を集めて誕生し、外つまり国際情勢においては、未だ中共との第二次冷戦は始まっていない。こういう内外の情勢の中で誕生し、長期の政権を維持したのが安倍内閣だ。

しかし、安倍内閣の末期、つまり、現在は、世界は既に、武漢ウイルス禍の中で、中共との冷戦に入っている。また、以前から明らかなように、北のロシアと西の中共が連携して我が国に仕掛ける軍事攻勢は、ソ連との第一次冷戦期を遙かに超えた厳しさである。これ、我が国領空に接近する中共軍機とロシア軍機に対する我が航空自衛隊機のスクランブル発進回数と、中共の尖閣諸島に対する露骨な侵略行為のエスカレートを見れば明らかであろう。この両国が、我が国に向けて核弾頭ミサイルを実戦配備していること、言うまでもない。

こういう状況下において、安倍総理は、ロシアのプーチン大統領をウラジーミルと呼んで「個人的信頼関係」を誇示し、中共の習近平主席を我が国の「国賓」として皇居に招こうとしていた。同時に、安倍総理は、尖閣を狙う中共に気兼ねして、國に殉じた英霊を祀る靖國神社に、痛恨の思い、で参拝せずに現在に至る。安倍総理の退陣の原因は、肉体的要因と言われているが、対中共・対ロシア姿勢において、国益を著しく損ない破綻していることを知らねばならない。

よって、十六日に、天皇陛下から内閣総理大臣に任命される菅義偉氏の任務は、前内閣の継承ではなく、明確な路線転換である。

まず、習近平主席の国賓招致を継承してはならない。プーチン大統領をウラジーミルと呼ぶ必要はない。北朝鮮に拉致された国民同胞を軍事行動発動によって奪還する方策のあることを自覚されよ。靖國神社に、第九十九代総理大臣就任の挨拶を兼ねて参拝されよ。その上で、必ず再選されるアメリカのトランプ大統領との連携を、今(九月)から深めて、対中第二期冷戦の当事者であることを明確にし、尖閣の軍事的防衛体制を断固強化すべきだ。

今、既に始まっている第二期冷戦とは、これに中共が勝てば、我が国と台湾および東アジアが、香港やウイグルのように中国共産党独裁権力の支配下に入ることだ。こんなこと、死んでも嫌ではないか。我が国は、必然的にこの冷戦の当事者なのだ。冷戦に参加するかしないかの問題ではない。そこで、我が国が、尖閣を断固守るという姿勢を鮮明にすることは、我が国自身を守ることに止まらず、台湾を守り東アジアの自由を守ることであると言っておきたい。尖閣こそ、キーストーン(要石)なのだ。

中共が、尖閣を奪えば、必ずそこに、ミサイル基地と海空軍基地を造成する。そうすれば、尖閣の南西の台湾と北東の沖縄本島が中共の掌中に入る。これは、何を意味するか。これ即ち、七十五年前に、我が国がアメリカに屈服した状況の再現である。中共は、これを狙って尖閣を奪いにきているのだ。我が国は、この中共の戦略に目をつぶって、彼を国賓として招こうとしていた。

今こそ、菅義偉総理は、西暦八九四年の菅原道真の遣唐使中止を見習って、対中姿勢の転換をすべきである。この遣唐使派遣中止の十三年後に唐帝国は崩壊した。同様に我らは、対中姿勢を転換して、二十一世紀の現在に増殖したグロテスクなファシズム国家である中共を崩壊させなければ、東アジアの「萬民保全の道」は開かれないと覚悟を決める時だ。