intelligence「対中国インテリジェンス戦争最前線」

香港独立派・陳浩天氏がノーベル平和賞候補になった衝撃とは 石井 英俊(自由インド太平洋連盟 副会長)

 2020年のノーベル平和賞に、香港独立派のリーダーである陳浩天氏(元・香港民族党党首)が候補者として正式にノミネートされました。中国共産党政権とその傀儡である香港行政府が最も弾圧している香港の活動家が、国際的な注目を集めるノーベル平和賞の候補者として正式に登録された意義は大変大きいと言えます。本稿ではこの意義と経緯について概説します。

 

 本年2月26日、ノーベル平和賞を選考する委員会の事務局を担うノルウェーのノーベル研究所は、今年の同賞には210の個人、107の団体が推薦されたと発表しました。317という候補数は過去4番目の多さとのことです。受賞者発表は毎年10月です。ノーベル平和賞はその時々の政治情勢にも影響されるため、受賞に至るかどうかは全く分かりませんが、少なくとも既に陳浩天氏の発言や行動は、全て「ノーベル平和賞候補者」としてのものです。その与える影響が国際的に大きくなっていることは明らかです。アメリカや香港では大きく報道されています。

 読者の中には、ノーベル平和賞が過去において金大中大統領(韓国)やオバマ大統領などに与えられるなど、その政治性や時として感じられる偏向性から、非常に怪しいものだと考えている方も多いと思います。もちろん私もその問題は良く理解しています。しかし、いまここで最も大切なことは、中国共産党政権にとって、このことがどういう意味を持つかです。これまで、中国の人権問題の関係では、ダライ・ラマ法王や劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞しています。劉暁波氏の時は、中国政府は劉暁波氏の出国を認めず、授賞式への出席を妨害しました。更には逮捕・軟禁を繰り返し、国際的な活動を恐れました。香港の独立派活動家がノーベル平和賞を受賞して世界中を飛び回りながら中国の人権問題を訴え続けていく、という構図を皆さん想像してみて下さい。中国政府にとっては非常に嫌な状況でしょう。ここに意義があります。

 

 さて、陳浩天氏がどういった人物であるかを簡単に述べます。私とは2016年以来の付き合いで、お互いに“兄弟”と呼び合う仲の盟友です。

 陳浩天氏は現在29歳の青年で、2014年の雨傘運動にはいち参加者として加わりました。有名な活動家ではありませんでした。注目を集めるようになったのは、2016年に香港の中国からの独立を主張する初めての政党である「香港民族党」を結成し、党首となってからです。2016年9月の立法会選挙に立候補しようとしましたが、立候補の受付自体を拒否されました。その後、立候補の受付拒否という問題は、香港で度々起きていますが、陳浩天氏がその政治弾圧の第一号です。さらに、2018年9月には香港史上初めてとなる社団条例による活動禁止命令を受け、香港民族党を解散させられました。元党首となっているのはそのためです。その後現在に至るまで、政党への活動禁止命令は陳浩天氏以外には受けていません。陳浩天氏に対する政治弾圧が、他の民主派や活動家に比べて際立っていることが分かります。2019年8月には爆発物所持容疑等で不当逮捕されますが、証拠が一切無く一旦釈放されます。しかし、同8月、香港警察により2度目の逮捕をされ、現在保釈中です。2019年9月には裁判所への出頭を待ち伏せされ、暴行を受けるなどのテロも受けています。

 陳浩天氏の最大の訴えは、香港の中国からの独立です。自分達では香港人であり、中国人ではないと訴えています。現在では、あらゆる調査によって、香港の若者達の80%近くが、自分達を中国人ではなく香港人であると考えていることが示されています。陳浩天氏の訴えが若い世代に支持されている状況であることが分かります。陳浩天氏自身は日本語を話せませんが、「陳浩天の香港人魂・日本語化プロジェクト」( https://www.sejp.net/andy_chan_project)という支援サイトがあり、詳しく記載されています。

 

 現在は香港もコロナの災厄が広まっている為に、昨年のようにデモ隊が街を覆っている状況ではありません。しかし、今年9月には立法会選挙が予定されています。いま現在は小康状態のデモ等も再び高まる可能性が高いと考えています。10月のノーベル平和賞受賞者発表の直前の時期に当たり、香港への世界的注目が高まればそれだけ受賞の可能性も高くなると言えます。

 最後に、ノミネートの事実を聞いて陳浩天氏が発表したメッセージの一節を紹介します。「このノミネートは私一人のためのものではありません。香港独立を主張してきた人々、そのために犠牲になってきた人々、特に香港のために恐れることなく最前線で戦っている若い人々、その全ての人々のノミネートだと私は思っています。」

 香港の戦いはまだ続いています。応援してください。

 

⑤写真説明

 写真中央:陳浩天氏

 写真左:筆者

 昨年10月ソウルにて