contribution寄稿・コラム

中国全体主義体制下における民族ジェノサイド 三浦小太郎(アジア自由民主連帯協議会事務局長)

現在、中国国内における、ウイグル、チベット、モンゴル各民族は、事実上、中国共産党政府にとっての「国内植民地」の状態に置かれている。各民族の「自治区」と呼ばれている地域で行われているのは、単なる人権弾圧の域を越え、各民族の自決権が完全に否定され、ナチス同様の民族絶滅政策、そしてスターリン同様の収容所国家が築かれている。

(1)チベット

 
 チベットは1949年の中華人民共和国建国以来、中国政府の圧力に苦しみ、59年に中国人民解放軍に全土を制圧された。1949年から79年にかけてのチベットにおける犠牲者はチベット亡命政府の120万人に上る(拷問による死;約17万人、処刑:約16万人、中国軍との戦闘による死:43万人、餓死:34万人、自殺;約9千人、傷害致死:9万2千人)。
1980年代以後、鄧小平・胡耀邦の改革の一時期においては、チベットにおいても多少はチベット語教育や宗教活動の自由が認められた時期もあった。しかし、今年2019年7月、チベットに一時帰国した在日チベット人の証言によれば、現在、チベットは、1960年代の文化大革命時代と同様の弾圧下に置かれている。
現在、中国政府は、チベットの各寺院に対し、中国公安が監視を強め、若い18歳以下のチベット人が寺院に入ることを禁じている。さらに、チベットの各家ごとに番号を付け、住民の身分証明書をつくると共に、個々人の細かい個人情報のすべてを記録・管理しようとしている。チベット自治区内の移動や旅行、また病院での治療のため離れた県に行く場合も、すべて中国政府の許可を取らなければならない。
そして、文化大革命時代に行われていた、住民強制参加の「人民集会」が定期的に復活し、集められた住民は朝から夜まで共産党を讃美する話を聞かされ、逆らったり去る素振りをすれば銃剣で脅される。また、大きな寺院からは僧侶が追放され、その後は観光施設としての寺院が形式的に残されるだけで、事実上仏教の学習や修行は禁じられる。今寺院で行われているものは、観光客にみせるための形だけの儀式に過ぎない。寺院の中には、共産党の赤旗を掲げさせられたり、毛沢東や習近平の肖像画を掲げさせられている所もある。そしてチベットでは今や、文化大革命時代が再来しつつあるのだ。

(2)モンゴル(内モンゴル自治区)

文化大革命の時代、内モンゴル自治区には約150万人弱のモンゴル人が住んでいた。しかし、あとから殖民してきた中国人すなわち漢族はその9倍にも達した。モンゴル人たちは自らの故郷において絶対的な少数派の地位に落ちていたのである。やがて中国政府と中国人(漢族)たちはモンゴル人全員を粛清の対象とし、少なくとも346,000人が逮捕され、27,900人が殺害され、独自に調査したアメリカとイギリスの研究者たちはおよそ500,000人のモンゴル人が逮捕され、殺害されたモンゴル人の数は100,000人に達すると述べており、また、直接殺害された者と自宅に戻ってから亡くなった者、いわゆる「遅れた死」を含めて、モンゴル人犠牲者の数は300,000人に達するという説もある。
この時期、特に女性に対しひどい虐待が行われている。次のような証言が残されている。
「中国共産党幹部たちは通訳の人を通して、私(モンゴル人女性)に『あんたたちモンゴル人の性生活は家畜のように乱れているだろう』とののしり、中国人の幹部たちは片手に毛澤東語録を持ち、もう片手で鞭を持って私たち9人の女性を叩いた。妊婦だろうと、年寄りだろうと、一切かまわずにやられた。親戚のNという20代の女性は殴られて流産したら、中国人たちは大声で笑い、喜んでいた。隣の集落から連れてこられたJという女性も性的な暴虐が原因で流産してしまった。」
「ある日、中国人たちは私にMという年配の女性を殴れ、と命令してきた。私が断ると、逆に叩かれた。Mは「彼らの命令にしたがって私を殴ってください。あなたはまだ若いし、子どもたちもいるから、生きなければならない」、と私を励ましてくれた。一週間後、Mは自殺した。私も絶望していたが、子どもたちのことを考えて耐えるしかなかった。結局、私たちの集落の女性たちはみんな身体に重度の障害が残った。」
 このような犯罪は現在まで罰せられることもない。性的な犯罪をうけたモンゴル人女性は沈黙を強いられたまま本日に至る。女性たちが自らの被害について語れれない中国社会は、二次的な加害行為がまだ続いていることを意味する。
 現在においても、内モンゴル自治区は事実上中国人共産党による支配下にあり、資源の乱獲、公害企業の無原則な誘致による環境破壊と草原の砂漠化が進み、モンゴル人の伝統的な遊牧生活は不可能な状態にある。モンゴル人の正当な自治権や民族のアイデンティティを護ろうとする運動家は厳しい弾圧にさらされている。

(3)ウィグル(東トルキスタン)

 現在の新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)において、中国政府は、大勢の著名な文化人を含むウイグル人を、法的根拠もなく無差別に強制収容している。その実数はわからないが、2018年には国際的な人権団体、ヒューマン・ライツ・ウオッチが、ウイグル人が法的手続きなしに拘禁され、政治的な洗脳を強制され虐待されているとして 「文化大革命以降、最悪の人権侵害」と指摘している。また、2019年7月18日には、ボンペオ米国務長官がウイグル人の百万人以上が強制収容されており「現代における最悪の人権危機で、まさに今世紀の汚点だ」と非難した、欧州議会は、2018年10月と2019年4月に、ウイグル人等を対象とした大規模な強制収容を非難する決議案を採択し、強制収容所の閉鎖と収容者の釈放を要求している。
強制収容所では、悪しき環境や拷問、虐待などにより死者が続出されているともされるが、遺体すら家族に返されることなく秘密裏に処分されるケースがほとんどである。(強制収容所近くに多くの大規模火葬場が建設されている)遺体が家族に返されないことの背景には、拷問による傷害致死を避けるため、また、臓器売買に使われている可能性も否定できない。これは現代におけるアウシュヴィッツというべき犯罪行為である。