contribution寄稿・コラム

日本を守るために落とした命・・・F35Aステルス戦闘機パイロット 西村眞悟

 現在の駐韓アメリカ大使のハリー・ハリス氏は、一九五六年、横須賀でアメリカ海軍軍人を父に、日本人を母として生まれ、アメリカ海軍に入隊して海軍大将となり日系人で始めてアメリカ太平洋軍司令官に就任した人物である。
このハリス海軍大将が、太平洋軍司令官として来日していたときの平成二十九年五月十五日、陸上自衛隊北部方面航空隊のLR連絡偵察機が患者搬送の為に札幌から函館に向けて飛行中に濃霧のなかで視界を遮られて山に激突し、搭乗していた機長の高宮城効一等陸尉(大尉)、副操縦士そして整備員ら四名の陸上自衛官が殉職した。
 
 ハリス海軍大将は、十七日に東京でアメリカ太平洋軍司令官として講演し、その最後に、十五日に殉職した四名の自衛官のことについて、次のように締めくくった。
「この事故で、思い起こさねばならないのは、若い隊員がわれわれのために日々命をかけてくれていることだ。日本を守るために落とした命であったことを、みなさん、覚えておいてほしい。」
 
 二年後の平成三十一年四月九日午後七時、三沢基地を、F35Aステルス戦闘機四機が編隊で夜間の対戦闘機戦闘訓練の為に飛び立った。しかし、編隊長細見彰里三等空佐(少佐)の操縦するF35Aが、二十五分後に三沢基地東方一四七キロ洋上で消息を絶った。
パイロットは機体から緊急脱出(ベールアウト)しておらず、海上からF35Aの尾翼の破片が発見された。以後、海と空から懸命な捜索が続けられているがF35Aもパイロットの細見三等空佐も発見されていない(四月十七日現在)。細見三等空佐は殉職したのだ。
 
 このF35Aステルス戦闘機は第五世代の最新鋭ジェット戦闘機で、軍事機密の塊だ。従って、この度の三沢基地沖洋上のF35Aの初めての墜落は、世界の軍事関係者の関心を集め、我が国も、アメリカ軍も、その機体が中共やロシアの掌中に入らないように懸命の捜索を行っている。
そして、我が国の自衛官の最高位にある統合幕僚長も防衛大臣も官房長官も、この度のF35A墜落に関して次の通り、コメントを発表した。
 
統合幕僚長は、「地元や国民に不安を与えてしまい、深くお詫びする」。
防衛大臣は三沢市長に「大変不安を与え、まことに申し訳ない」。
官房長官は、「地元の皆様に大変不安を与えてしまったことにたいし、お詫び申し上げる」。
そして、マスコミは、この墜落の報道において、F35A一機の価格が約百四十億円であることを等しく強調している。
 
 さて、ここで注目すべきことは何か。それは、自衛官の殉職に対する日米の首脳の思いの格差である。
ハリー・ハリス海軍大将は、自衛官の殉職を、「日本を守るために落とした命であったことを、みなさん覚えておいてほしい」と言った。しかし、我が国の自衛隊トップも大臣も、殉職した自衛官のことは何も言わず、国民や市長に、F35Aの墜落が不安を与えたことをお詫びしているにすぎない。それに加えてマスコミはそのF35Aの値段が一機百四十億円だと強調している。
これではまるで、F35Aを操縦していて殉職した自衛官は、高級車を乗りまわした果てに、その車をぶつけて壊して人に不安と迷惑をかけた遊び人と同じ扱いではないか。
これでは、殉職した自衛官が浮かばれない。何故、せめて自衛官のトップは、冒頭に、部下の「国の宝である優秀なベテランパイロット」を失った痛恨の思いを述べたうえで、彼の命は「日本を守るために落とした命である」と言えないのか。
 
 現在、我が国の領空に接近する外国軍機の数は冷戦期をはるかに上回って年間九百回を越え続け、平成二十八年度は一千百六十八回であり、その内訳は中共軍機八百五十一回でロシア軍機は三百十回である。
この度に、我が航空自衛隊ジェット戦闘機は緊急にスクランブル発進してその軍用機に接近し我が領空に接近するなと警告を発して追い返している。それと同時に、我が戦闘機部隊は、絶え間なく空中戦闘の訓練を実施して技量を磨き、中共軍とロシア軍の日本に対する敵対行動を抑止しているのだ。
まさに、我が国周辺の空域と海域は、東アジアの中で一番緊張した準戦時状態にあるといえる。
従って、この緊張状態のなかで、F35Aステルス戦闘機を操縦して夜間戦闘訓練を行うなかで殉職した細見三等空佐は、命を国に捧げた英霊であり、靖国神社に祀られるべきだ。