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【論説】格差社会の象徴のようなゴーン容疑者の人間性

※ゴーン容疑者(ウィキペディアより)

 
金融商品取引法違反の疑いで逮捕されたカルロス・ゴーン容疑者(64)が、最終的に会社法違反(特別背任)で立件される可能性の高い疑いが浮上した。朝日新聞の報道によると、ゴーン前会長が日産社長だった08年秋のリーマンショックの際、自身の資産管理会社と銀行の間で契約していた通貨デリバティブ(金融派生商品)で多額の損失が生じ、契約内容を日産に付け替え、約17億円の損失を肩代わりさせたという。
 
事実であれば、日産社員でなくとも許し難い暴挙である。捜査や疑いの段階で決めつけてはいけないが、日産側からリークされているゴーン容疑者の数々の私物化ぶりは、何とも呆れ果てる内容である。「業務上の正当な理由がないのにブラジルのリオデジャネイロ、レバノンのベイルート、パリ、アムステルダムの世界4か国で会社側から住宅の提供を受けていた」「会社から購入費用や改築費用として数十億円が支払われていたが、ゴーン容疑者は家賃を支払っていなかった」云々。
 
創業家による使い込みであれば、「会社は俺のもの」と勘違いする思考回路も理解できなくはない。だが、ゴーン容疑者は日産の筆頭株主であるルノーから再建を託されて乗り込んできた雇われ社長である。コストカットを徹底してV字回復したと持て囃されてきたが、その犠牲になったのは雇止めで会社を去った元社員や大幅減給に泣いている現社員である。彼らの多くは、ゴーン容疑者よりも以前から日産で働き、愛社精神も深かったに違いない。
 
こうした社員にひたすらノルマを課しながら蓄財に勤しむ行為は、日本人の価値観には全く合わない。格差が激しすぎる欧米流の資本主義が、金融危機を招き、異次元の金融緩和が行われ、今また世界経済が揺らぎつつある。そうした反省に立つどころか、金融危機での私的投資の失敗を会社に付け替えるという非道な行為が本当に行われていたのであれば、まさに特別背任そのものである。
 
外出の際には、ペットボトル1本さえも会社に負担させていたというゴーン容疑者。誰も逆らえないマウンティングの立場を利用して、徹底的に金を毟り取る守銭奴ぶりは、舛添要一前都知事を思い出させる下劣さである。
 
現在、クライマックスを迎えようとしているNHK大河ドラマ『西郷どん』の主人公西郷隆盛が、朝敵となり惨めな切腹を遂げて後も、上野に銅像が建てられ国民が慕い続ける理由は、官職や金銭に縛られず日本の将来の発展だけを願い、最期は弟分たちの暴走の責任を自ら取った生き様に人々が共感するからだろう。
 
武士は食わねど高楊枝。ラストサムライとも言える西郷が斃れて150年。欧米の資本主義に追いつこうと明治の志士が追い求めた日本は今、金の亡者ばかりが行政・会社を支配する欧米型の国に『成長』し、『サムライ』は絶滅した。