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【論説】結果にコミットできなかったライザップ成長神話

ウェブサイトでもCM同様に派手な「前と後」を比べているが…

 
M&Aを繰り返して売上高が急拡大していたRIZAP(ライザップ、札証アンビシャス上場)が11月14日、業績予想を大幅下方修正し、翌日から同社と関連会社の株価が急落している。
 
2019年3月期の通期の営業利益を230億円の黒字としていたが、33億円の赤字になると発表した。同社は、この2年で52社を買収し2018年3月末で75社に上る。大半が赤字企業だが、同社は本業であるダイエット方法の理論や目標設定を用いて、短期間での業績V字回復を目指してきた。
 
M&Aには数字の魔法がある。株価が低迷している赤字企業は、しばしば純資産よりも低い額で買収できる。その差額分は「負ののれん」として収益扱いされる。つまり、買収した時だけ幻の収益が発生するので、買収規模の大きいM&Aを繰り返す限り、企業は売上も収益も膨張し続けることができるのである。
 
とはいえ、赤字企業の業績が上昇しなければ、今回のライザップのようにM&Aを止めた瞬間に収益の崖が訪れる。業績の実態を伴わない企業の多くが、こうした数字の魔法を駆使して右肩上がりの売上高と収益を演出しているため、損益計算書や貸借対照表だけではその企業の実態が見えないことも多い。
 
ライザップは特徴的なCMで急激に知名度を高めてきた。しかし、有名なタレントを用いたCM自体もマンネリ化し始め、大金を払ってでもダイエットしたいという人は、すでに一度は同社でダイエットを経験し、新たな顧客層開拓に限界が生じているとみられる。本業は好調のようだが、同じ業態のライバル企業も最近、CMで見かけるようになっている。短期間で結果にコミットするダイエットは、簡単な運動器具とトレーナーがいれば比較的簡単に参入できる。
 
誰もいないブルーオーシャンの市場が、参入企業で溢れるレッドオーシャンに変化しつつある中で、“裕福な肥満”の顧客はすでに一回転してしまった。となれば、本業だけでは今後先細りしていくおそれがある。そんな危機感が同社を猛烈なM&Aに駆り立てたと思われるが、逆に自ら首を絞める結果になってしまった。
 
今後は広告費もこれまでのようにジャブジャブと投じるわけにはいかなくなるだろう。フリーペーパーの『ぱど』や衣料品販売のジーンズメイトなど、本業とのシナジー(相乗効果)が見込みにくい赤字企業ばかりを買収しており、M&Aによるメリットは今後も期待できない。戦略の欠如が本業の危機にまで発展する可能性がある。
 
消費者金融や英会話など、やたらとCMが多いなと思った企業の中にはその後、不祥事や経営危機が発覚し市場から強制退場しているケースも目立つ。
 
ダイエットも企業経営も、過ぎたるは猶及ばざるが如し。急激なリバウンドには要注意である。