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【論説】あれから10年、世界恐慌の根は断ち切れたのか

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2008年9月15日に発生したリーマン・ショックからまもなく10年を迎えようとしている。
 
10年ひと昔と言う言葉がある。10年も経てば、世界規模の金融恐慌といえども「よく覚えていない」「その当時は子供だったのでよく知らない」という人も多いことだろう。
 
しかし、本当に当時の危機は遠い昔のハプニングで終わったのか。或いは、マグマ溜まりにエネルギーが蓄積されていて、更なる危機に向かう踊り場にいるのか。
 
日本ではリーマン・ショックと呼ばれるが、世界的には『2007-2008年の世界金融危機』という名称が一般的である。金融緩和を過度に重視するアラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)元議長の時代から株価上昇が続いていた米国では、大きな調整もなく住宅市場はバブル化していた。
 
2007年夏、住宅市況が悪化し、住宅の買い替えを繰り返していた中低所得者の破産が相次ぐ。米国4位の証券会社リーマン・ブラザーズなどが組成して売り捌いた玉石混交の金融商品であるサブプライム住宅ローンは不良債権と化していった。
 
同商品を大量保有していた金融機関がリスクマネーを引き上げると、金融市場は混乱に陥る。2008年9月15日、リーマン・ブラザーズは破綻し、第二、第三弾の株価急落となり、世界中のマーケットが暴落した。直接の引き金こそリーマン・ブラザーズだったが、『世界金融危機』と呼ばれる通り、国際的には一企業の破綻問題ではないという認識である。
 
この危機に、欧米の金融当局は大規模な金融緩和で流動性資金を供給し続けた。迅速かつ大規模な緩和が功を奏し、欧米のマーケットは早期に落ち着きを取り戻した。
 
一方、日本の企業で同商品を保有している企業は比較的少なかったが、白川方明・前日銀総裁は大規模な金融緩和に二の足を踏み、株価の回復は遅れ、外国資本は欧米に流れた。こうした流動性資金を効果的に運用し、M&Aを繰り返して巨大化したGAFA(G=グーグル、A=アップル、F=フェイスブック、A=アマゾン)やUBER、NetflixなどのIT企業はパラダイムシフトする構造変化の中で各分野での圧倒的なトップランナーにのし上がった。
 
2013年に就任した黒田春彦現総裁が、安倍政権との二人三脚で異次元の金融緩和に踏み切ったことで、日本もようやく円高の流れを断ち切り、アベノミクスのもとで株価回復に舵を切った。
 
こうしてみると、シュリンク(萎縮)した投資マネーは、先進国を中心にした大規模金融緩和により再びリスクオンに戻り、世界中の金融当局が創出した巨額マネーで一時的なバブルの演出を続けているのが現状ともいえる。
 
好調といわれる日本経済も、1980年代後半のバブル経済の時とは異なり、給与所得や消費者物価指数は思うように上昇せず、雇用や企業の内部留保が改善しても、人々に好景気の実感がないと言われて久しい。
 
金融緩和を続ければ金利は上がらず、金融機関の経営は先細りとなる。国債を吸収し続けることで日銀の総資産は膨張し、膨らむ長期国債の実質金利が出口戦略の過程で上昇すれば、国家破綻の懸念も高まる。
 
様々な副作用の懸念を抱えた状態で、世界はFRBによる金利引き上げのぺースを見守っている。11月の中間選挙を横目に見ながら、FRBの独立性に横やりを入れようとするトランプ大統領の予測不能性も相まって、先々の未来は極めて不透明だ。