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【論説】シリアで拘束の日本人、政府は救出に及び腰?

「今すぐ助けてください」と訴える安田氏とみられる人物(動画サイト「Vimeo」から)

 
テロリストに銃を突き付けられ、オレンジ色の服を着せられた日本人が助けを求める動画が7月31日、ニュースで流れた。シリア北部で行方不明になっていたジャーナリスト安田純平氏(44)だ。
 
安田氏は2015年6月、トルコ南部からシリア国内に入った後で拘束された。拘束した組織は、シリア反体制の過激派組織アルカイダ系の「シリア解放機構」とみられる。
 
3年余も拘束されている割にあまりニュースになっていないのは、安田氏が「危険を承知で現地に入ったジャーナリストだから」というだけではないだろう。2003、04年にかけてイラクで4度も拘束され、今回は5度目の拘束である。
 
拘束される直前にはSNSで再三、日本政府を非難している。2015年4月には「戦場に勝手に行ったのだから自己責任、と言うからにはパスポート没収とか家族や職場に嫌がらせしたりとかで行かせないようにする日本政府を『自己責任なのだから口や手を出すな』と徹底批判しないといかん」と記した。消息を絶つ2日前の6月19日には「警察が家にまで電話かけ、即刻退避しろと言ってくる日本は世界でもまれにみるチキン国家」とツイッターで痛烈に批判している。
 
イラクにおける日本人人質事件といえば、2004年当時、複数回にわたって誘拐事件が発生し、ボランティアや旅行者が危険地帯に入ったことに対し「自業自得だ」とする批判の声も大きく、連日の報道で世論も大騒ぎした。また、2015年1月にIS(イスラミック・ステート)に殺害された2邦人のうち後藤健二氏は、拘束された仲間を救うべく現地入りしながら犠牲になった痛ましい記憶も新しい。
 
こうした報道を経て、国民の間にも「またか」という空気もあるように感じられる。14年前の大騒ぎは何だったかのかというほど、素っ気ない報道ぶりに戸惑うが、安田氏が拘束前に政府批判を繰り返さなければ、ここまで放置されることもなかったのではないかという気もする。
 
安田氏は7月31日の動画で「私の名前はウマルです。韓国人です。今日の日付は2018年7月25日。とても酷い環境にいます。今すぐ助けてください」と話している。安田氏がなぜ「韓国人」「ウマル」と名乗ったのかは不明である。
 
国も人と同じで、過去の経緯によって「救出したい」と思う気持ちにも大小があるかもしれない。不平等に扱うなと言っても、それが人情というものだろう。そんな国に対し、安田氏も日本人であることを否定したのだろうか。
 
色々と考えさせられる今回の拘束であるが、どんな経緯があるにせよ、国はまず全力で安田氏を救出してほしい。