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【論説】タクシーの将来像めぐり水面下で激しい綱引き

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ソフトバンクグループ(SB)の孫正義社長が今、最も関心あることは、通信でもロボットでも半導体でも宇宙でもない。タクシーのようだ。
 
7月19日の企業向けイベントに登壇した孫氏は、日本のライドシェアが道路運送法により禁止されている状況について、「こんなバカな国があるなんて信じられない」と国の政策を批判した。
 
ライドシェアの利便性は、単に近くを通りかかった素人が隙間時間にタクシー運転手として副業できるのみにとどまらない。ビッグデータによる需要予測ができることで、流しのタクシーが減り、交通混雑や事故の減少につながり、環境保護やヒートアイランドにも貢献する。何よりも、目的地に急行したい利用者が、最短時間でより安く移動できるメリットがある。
 
たとえ既得権を得るタクシー業界が反対しても、世界中で広がるこの動きは止めようがなく、遅かれ早かれ日本の配車サービスを変化させる。通信回線の割り当てで孫氏が総務省に直談判し、NTT独占の牙城を崩したように。
 
孫氏は近年のプレゼンで、未来のSBを語るときに「情報革命の旗手に」「各分野のトップ企業を集めた群戦略」「トップ同士のシナジー効果」「300年続く企業」といった言葉を多用し、パラダイムシフトする社会のパイオニアとなる考えを明確にしている。
 
その例として真っ先に挙げるのが、配車サービスを手掛けるアプリ企業への出資だ。アップルのティム・クックCEOやサウジアラビア皇太子らも出資するSBの1000億ドルファンドを活用して、これまでインドのオラ(Ola)や中国の滴滴出行(ディディチューシン)、シンガポールのグラブ(Grab)、ブラジルの99など、世界中の配車サービスを傘下に置いてきた。業界のトップランナーであるウーバー(UBER)が黒字化する前に、資金力を使って主要市場を先回りして抑えたという見方もできる。
 
他方、SBはウーバーの発行済み株数15%を77億ドル(約8500億円)で取得することで資本提携した。ウーバーは創業8年で累積債務が50億ドルに上るといわれる。SBは評価額が低くなったタイミングでの出資に成功した。一方のウーバーも、資金繰りだけでなく日本の市場開放という面で、SBとタッグを組めるメリットがある。
 
無断配車が『白タク』として禁止されている日本で、孫氏の突破力に期待するが、タクシー業界はロビー活動を活発化している。孫氏は「配車サービスを手掛ける企業が組み合わさると、世界最大級の走行距離を持つ交通プラットフォームとなる」として、航空業界や鉄道業界を凌ぐ潜在力を秘めていることを強調する。
 
“未来”に先回りしてより良いサービスを提供する見返りに、新分野(ブルーオーシャン)の覇者となる。族議員の跋扈する日本の国会議員は、孫氏にとって岩盤規制そのものに映っているだろう。
 
だが、そういった時代の変革者という見方とは対照的に、後発参入の劣勢を規制緩和をテコに覆そうとしているのではないかという穿った見方もできる。
 
国内事情を見ると、配車サービスはトヨタと提携した日本交通が一歩先を進んでいる。日本交通は2011年1月から配車アプリをリリースし、早い段階からIT化に対応。2017年1月から東京23区と武蔵野市、三鷹市で始まった初乗り運賃730円→410円の大幅値下げでは、最大手として業界をまとめて実現させた経緯がある。
 
ウーバーやSBが一般車を巻き込んだ配車サービスを狙うのに対し、日本交通は既存のタクシー業界を中心にしたIT化や自動運転化を目指している。近い将来に配車アプリや自動運転が常識になることを見越した上で、『白タク』を認めるか否かの水面下の闘いが、すでに族議員を巻き込んだロビー活動として激しく展開されている。