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【論説】グーグルは天使か悪魔か――独禁法違反と好決算発表

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制裁と好決算――先日、グーグルに関する明暗2つのニュースが紙面を飾った。
 
欧州連合(EU)は7月18日、グーグルに制裁金としては過去最高額となる43億4000万ユーロ(約5700億円)の支払いを命じた。グーグルがモバイル端末用基本ソフト(OS)アンドロイドの圧倒的地位を乱用して、独占禁止法に違反し他社を阻害したと判断した。EUがグーグルに巨額の制裁金を科したのはここ1年余りで2回目で、グーグルは上訴する方針だ。
 
EUによると、グーグルはスマホメーカー各社に対し、アンドロイド端末にアプリ配信サービス、グーグルプレイを搭載する条件にウェブブラウザー、クロームなども事前搭載するよう要求。また、他の検索エンジンを使わないことを条件に奨励金を支払った。
 
通常、これだけの支払い命令が出れば、株価急落の要因となるものだが、同社の親会社であるアルファベットのこの日の株価は前日比ほぼ横ばいで終了した。23日に発表された同社の決算は好調で、その後は上昇に転じている。
 
制裁措置に対し、グーグルは「アンドロイドの無料提供をやめるか、米アップルが採用しているようなOS市場を厳しく管理するビジネスモデルにシフトする可能性がある」と警告。サンダー・ピチャイCEOは「技術仕様やプログラムのソースコードなどを公開したオープンプラットフォームよりも所有型プラットフォームの方が好ましいという誤ったメッセージを送ることになる」との懸念を示した。
 
今年9月に満20歳の誕生日を迎えるグーグルの歩みは、インターネットが爆発的に普及したブロードバンドの歴史そのものである。EUの制裁金命令は、かつてマイクロソフト(MS)も受けたことがある。グーグルはマイクロソフトと同じ道を歩んでいるのだろうか。

 

 
グーグルは1998年9月4日の創業当初から人々に脅威を与えた。それまでの検索エンジンは、従業員が検索ワードごとに順位付けするアナログなインデックス方式だったのに対し、グーグルはウェブ上の検索ロボット(クローラー)を用いたPageRankで検索最適化を行うアルゴリズムを採用。どんなワードにも瞬間的に検索結果を表示し、新しいウェブページもクローラーが巡回することで自動的に反映される検索エンジンの性能は魔法のようだった。
 
当時、ウェブ検索のトップランナーだったヤフーやエキサイトを瞬く間に蹴散らし、米国では検索エンジンの圧倒的なナンバーワンに急成長する。創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は、スタンフォード大学の博士課程に在籍中の学生だったが、今やそれぞれの総資産は5兆円余で世界12位と13位の億万長者である(2018年Forbes発表)。
 
創業時から「世界中の情報を整理し貢献する」ことを経営理念とし、利益優先を戒める「邪悪になるな (Don’t be evil)」を合言葉に、同社の価値観を示してきた。
 
2004年8月19日に上場し、公募価格は会社の規模や売上高からすればかなり割高とされた85ドル。グーグルの将来性については誰も疑わなかったものの、あまりの高値に「すでに将来価値が織り込まれている」と懸念する声も少なくなかった。人の集まる検索サイトが金の卵であることは間違いなかったが、それを利益に替える仕組みや技術が定かでなかった時代である。
 
今やグーグルは検索エンジンに伴う広告ビジネスにとどまらず、メールや地図、OSなどあらゆるソフト開発やハードウェア開発、AIや自動運転の技術開発など、コンピュータ関連では多くの分野で最先端の技術を持つIT企業に成長した。アルファベットの時価総額は6月末の時点で7795億ドル(約85兆円)、アップル、アマゾンに次ぐ世界3位である。85ドルだった株価は7月終値で1227ドルを付け、14年間で約15倍に上がったことになる。
 
当時はどう見ても割高だった株価が、気が遠くなるほど上昇するとともに、世界中にユーザーが拡大した結果、その影響力はむしろ数百倍といっても過言ではないほどのガリバー企業に成長した。
 
グーグルはアカウント情報をもとに膨大な個人データを有しているが、フェイスブック(FB)のように8700万人もの個人情報が流出し、米大統領選に影響を与えてしまったような大きな失態は今のところない。
 
検閲に反対して中国から撤退したグーグルに対し、FBは中国でのビジネス展開を積極的に進めている。「世界の情報を整理する」という理念は、クロームやマップなどの精度向上で日々、世界中の人々に無償で貢献している。
 
「邪悪になるな」という思春期の少年のようなスローガンは、ビジネスとサービスの見事なバランスで世界有数の巨大企業となった今でも、かなりの部分で保たれているように思う。
 
一方で、中国の検閲版サーチエンジンを掲げて再進出するという噂もある。数十兆円という時価総額のおかげで売上高や租税回避など、お金にまつわる話も後を絶たない。EUが指摘した独禁法違反はかつて、“邪悪”の反面教師と言われたMSがOSとブラウザの抱き合わせ販売をメーカーに強要したケースに似ている。
 
とはいえ、グーグルはMSのように有料ソフト対象ではなく無料ソフトを対象にしている。FBのように個人情報流出や政治の世界に足を踏み入れることもしていない。
 
邪悪になれば世界をひっくり返せるほどの力を持ってしまったグーグルが、初心を忘れずに世界の役に立ち続けられるか。それは世界中の人々の幸福、ひいては人類史を書き換えるほど大きな影響力を持つ組織の評価そのものを決定づける。