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【論説】テン選手の悲劇に学ぶ、犯罪現場に遭遇したときの対処法

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2014年ソチ冬季五輪フィギュアスケート男子銅メダリストで、カザフスタン代表だったデニス・テン選手(25)が、アルマトイで刺殺されたという衝撃のニュースが飛び込んできた。
 
7月19日、23歳と24歳の2人組が、テン選手の車からミラーを盗もうとして口論になり、テン選手をナイフで刺して出血性ショックで死亡させたという。2人はテン選手とは知らず、ニュースで初めて知ったという。
 
このニュースを聞いたとき、私(記者)は高校時代の実体験を思い出した。駅駐輪場に停めていた原付バイクが数人に囲まれ、鍵のロックを解除しようとする現場に遭遇したのである。アルバイト代で購入した貴重な愛車が暴漢に襲われている。怒りの感情が渦巻く中で、最優先課題は愛車が壊される前に輩を退散させることだった。
 
私は咄嗟に、自分の怒りの感情に見合わない声高な口調で「ちょっとぉ何してるの?」と、文句を言いながらバイクに駆け寄ったのである。計算したわけではなく、早く追い出したい気持ちと、怒りと同時に抱いた恐怖心が、自分を無意識の演出に走らせたようで、理性で制御できない本能の自分がそこにいた。
 
連中はバツが悪そうな様子でその場から立ち去った。私はDD(ディー・ディー)と名付けていた愛車を撫でながら安堵すると同時に、連中への怒りで興奮し、同時に正義を捻じ曲げた自分自身に羞恥心を抱いた。
 
だが今思えば、自分とバイクを守るための最善策を、本能が導いてくれた的確な行動だったのではないかと思えてくる。
 
犯罪行為をしている連中は真正面から咎められるとかえって開き直るか、自分たちの不法行為を隠そうとして攻撃してくる可能性がある。彼らに対して、日常に戻すチャンスを与え、尚且つ「警察がもうすぐ来るぞ」などと即時撤退を促すことが、こうした状況を打開する最善策のように思う。
 
勇気と才能ある若者が犠牲になったことに心より冥福を祈り、二度と同種の悲劇が繰り返されないことを願う。