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【論説】裏口入学を疑われた学生はどうなるのか

報道当日、お詫びを掲載する東京医大HP

 
文部科学省の科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者(58)が、私立大学の支援事業で東京医科大学に便宜を図る見返りに同大を受験した息子を合格させたとして、受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
 
2018年度の東京医大医学科の一般入試は3,535人が受験(センター利用含む)し、214人が合格。倍率は16.5倍という超難関。すでに入学している息子は今後、どうなるのだろうか。
 
近年、こうした事件はすぐに関係者による情報提供があり、本人が特定されてしまう。ネット上ではすでに本人の名前だけでなく昨年5月の段階で「日本一幸せな浪人生」などと記しているSNSも明らかになっている。センター試験の16日前にセブ島に遊びに行く余裕も見せており、合格を確信しているかのような言動が目立つ。
 
すでに同大のブランドが傷つき、苦労して入学した学生には「自分も疑いの眼差しを向けられる」と肩身の狭い思いだろう。実際、同学年で同姓の学生が複数の誹謗中傷を受けているとして司法関係者に相談しているとネット上で打ち明けている。これだけ在学生に迷惑をかけながら、裏口入学した息子が学内で学び続けることは、制度上は可能だったとしても困難だろう。
 
裏口入学の不正は最近ではほとんど聞かないが、農協や教員採用をめぐり贈収賄事件に発展するケースは全国各地で頻発している。関係者による自供などで事実が確定した段階でこうした採用は取り消されるのが通例だ。
 
不正によって、本来であれば合格していた学生がいたとしても、それは証明できないだろう。同大の学生や、不祥事が相次ぐ文科省の職員など、今回の事件で無数の人々が迷惑を被っていることだけは間違いない。
 
表沙汰になる裏口入学や不正採用は氷山の一角に過ぎない。国公立の教育機関が口利きをすれば贈収賄に問われるが、私立の教育機関で個人的つながりを合否に反映させても、金銭授受がなければ罪に問えないとも言われる。近年流行のAO入試は、大学の入学管理局(admissions office)による選考基準で合否を決めるという点で、合法的な裏口入学だと指摘する専門家もいる。
 
しかし、一罰百戒により「天網恢恢疎にして漏らさず」の教訓を世間に知らしめることで、こうした不正の芽を最小限に摘むことが捜査機関の役割であり、証拠固めが困難と言われる汚職事件で情報提供を促す最善の一手である。