araki「拉致問題の闇を切る」

拉致被害者の切り捨ては許さない   荒木和博

 特定失踪者問題調査会では6月26日に理事会を開催しました。そこでは米朝首脳会談以後の状況を分析し、今後の活動について論議し、下に付けた文書を6月29日、記者会見を開いて発表しています。
 
 私たちが一番懸念するのは拉致被害者の切り捨てです。現在家族会(政府認定者を中心とするもともとの家族会)・救う会・拉致議連は「即時一括帰国を」という方針です。北朝鮮に対して求めるのが「即時一括帰国」であることに異存はありません。当然のことだと思います。しかしこれが現実問題として実現できるかと言えばほぼ不可能です。そんな中で何人か取り返せるという状況があったときに、「全員ではないから」という理由で受け入れなければその人々は見殺しにされる可能性があります。
 
 これは仮定の話ではなく、共同通信が3月に報じたように、4年前には北朝鮮側から日本政府に対して政府認定拉致被害者の田中実さん、特定失踪者の金田龍光さんが北朝鮮に生存していることが伝えられています。しかしそれを日本政府は黙殺し、情報を公開しませんでした。
 
 前にも書いたことがあったかと思いますが、田原総一郎氏も実際に北朝鮮側から被害者生存の情報を受けています。以下は「朝まで生テレビ」で横田めぐみさんや有本恵子さんが北朝鮮で死亡していると発言し、両親から訴訟を起こされた裁判の陳述書の一部です。
 
 「私(田原氏)は、(北朝鮮から)帰国後の平成十九年十一月八日、外務省にて、外務省幹部四人と拉致問題について話し合いました。(中略)私が、ソン・イルホ大使が「八人以外に複数の日本人が生存している」と話したことを伝えたところ、外務省幹部は『同じ話を聞いているが、八人以外の複数の日本人が帰国しても、北朝鮮に対する世論が好転することはないと判断したため、その話はなかったことにした。』などと話しました」
 
 ここには名前はありませんが、「複数の日本人」の中には田中実さんや金田龍光さんも入っていたのでしょう。これまでも北朝鮮側からリストが政府にもたらされたという話は何度もあり、報道もされてきました。ならばこのような情報をなぜ政府は黙殺してきたのか。
 
 推測でしかありませんが、「目玉商品」が入っていなかったことが黙殺した理由だと私は思っています。横田めぐみさんや有本恵子さんらの名前が無かった。そして北朝鮮との間では「これでおしまいにする」ということで交渉が行われている、だからおしまいにできない。しかし田中実さんや金田龍光さんの名前が出れば世論はどうなるか分からない。ならば出さない方が良いということでしょう。この点は田原さんの陳述書の内容とも符合します。4年前のストックホルム合意で何も出なかった理由はそこにあるのだと思います。
 
 私たちが一番懸念するのは、「全員即時一括」にこだわり過ぎると、逆に出てきたものが「全員」であるとしなければならないときが来るのではないかということです。だから、求めるのは「全員即時一括」でも、そうでなかったときの対応については様々なケースを考えていく必要があると思います。アプローチはどうでも良い、ともかく何年かかっても拉致被害者を根こそぎ取り返す、その覚悟が私たちに問われているのです。
 


今後の活動について
 
 特定失踪者問題調査会は6月26日理事会を開催し、現状についての分析と今後の活動に関する検討を行った。
 
 そこで決定した今後の基本方針は「1人からでも、一刻も早く、日本人は日本が取り返す」というものである。北朝鮮に対して「即時全員一括帰国」を求めるのは当然であっても、100%の実現は不可能である。ともかく可能なところから取り返し、最終的に全ての拉致被害者の救出を目指すのが現実的かつ妥当な方向であると考える。
 
 その前提に立って、私たちは今後以下のような活動を進める。
 
1、逐次状況に応じて特別検証を行い、世論の喚起と啓蒙に努める。
2、「しおかぜ」は現在停波している中波放送に関し、送信国の状況等についても情報収集を行い早期の送信再開を目指す。政府の対北放送「ふるさとの風」との共同公開収録開催を推進する。
3、ホームページをリニューアルし、より広報活動の活性化を目指す。
4、コミュニティFMを使い家族の声や「しおかぜ」のコンテンツ、拉致に関わる歌など多様な情報発信を行う。電波自体は到達範囲が限られるがインターネットにより全世界で聴取できるので国内一般向けの媒体として活用する。
5、秋に特定失踪者家族等関係者を中心とした韓国研修ツアーを実施する。
6、「その後」プロジェクトについては事態の深刻さに鑑みさらに研究及び提言の充実を目指す。
 
 以上のような活動を具体的に行うが、最後の1人まで取り返すためには北朝鮮の中に入り調査を行わなければならない。そのための官民合同調査団の結成に向けて準備を進める。また、調査会独自でも陸路及び海路から北朝鮮へのアプローチを目指す。
 
 ともかく情報が必要であり、また現在明らかにできる情報は可能な限り明らかにすべきである。これまでたびたび、北朝鮮側から日本政府に拉致被害者・特定失踪者の情報が提供されたと言われており、米朝の交渉の中でも提示されたとの報道がある。政府は拉致問題を進展させようとするなら、今あるリストを公表するよう求める。
 
 繰り返す。日本人は日本しか取り返せない。官民を問わずそれぞれの立場でできることを進めていくべきであり、私たちも当然その先頭に立つ覚悟である。各位のご協力を心よりお願い申し上げる。
 

  平成30年6月29日
特定失踪者問題調査会