tajikarao「タジカラオの独り言」

―親友より戦友!― 野伏翔

―親友より戦友!―
野伏翔

 
 桜の蕾もほころんで、もうしまっても大丈夫だろうと思いマフラーや手袋毛糸の帽子などを洗濯に出した翌日の3月20日、関東の気温が急に下がり花冷えの東京には雪が降った。東京町田市ではすでに桜が開花しており、雪と桜が同時に舞う「共演」を楽しめたと言う。
 
 雪と桜が同時に舞うと言えば、劇作家清水邦夫の「タンゴ冬の終わりに」という戯曲のことを思い出す。ストーリーは、全盛を極めていた中年の舞台俳優が、肉体の衰えと台詞の暗記力の低下によりノイローゼ状態に陥り、ある日シェークスピアの「オセロー」の本番の舞台上で突然引退を宣言し、郷里の北陸にある実家、古ぼけた映画館に帰ってしまうところから始まる。
 
 彼の妻は夫に正気を取り戻させようと思い、苦肉の策で、彼が書いたと見せかけた偽の手紙を出して元愛人を呼び寄せる。やってきた愛人は、今や他の俳優の主演する「オセロー」のヒロイン「デズネモーナ」を演じるスター女優になっていた。
だが男にはその若い愛人が思い出せない。しかしあるきっかけで、彼は今自分がオセローの舞台上の本番の最中にいると錯覚する。同時に今目の前にいる若い女が、舞台上にいるデズネモーナに見えてきた。
 
 劇のクライマックスは、嫉妬に狂ったオセローが愛妻デズネモーナの不義を疑い、殺害してしまう場面である。
男はその若い愛人の首に両の手を掛ける「見苦しいぞ!動くな、デズネモーナ!」と叫びながら・・・。
そしてラストシーン、狂った元俳優は幻のダンサーたちに導かれ、タンゴを踊りながら映画館を出る。外には雪と桜が同時に乱舞していた。
 
 この芝居は蜷川幸雄演出平幹二郎主演で上演され、その後イギリスでバネッサ・レッドリーブなどが出演し話題になった。
私も「楽屋」「幻に心もそぞろわれら将門」などの演出で清水邦夫さんとはお付き合いがあり、ある日この「タンゴ冬の終わりに」の上演の許可を貰おうとした。
だが「この劇の舞台は最初は田舎の分教場の設定で書いたんだが、蜷川君のアイデアで取り壊し寸前の映画館にしたんだよ。だから蜷川君以外の演出家に渡せないんだ」という答えだった。

記事の続きは有料会員制サービスとなります。

2023年3月より新規会員は新サイトで募集しています。
こちらでご覧ください。

Yamatopress Web News

やまと新聞は日本人による日本のための新聞社です。
会費は月額350円(税込)です。全ての記事・コラムがご覧いただけます。

会員の方はこちら