contribution寄稿・コラム

政治利用されていくおことば 村田春樹

政治利用されていくおことば
村田春樹

 
旧臘に発売された週刊新潮一二月一四日号の特集「安倍官邸に御恨み骨髄『天皇陛下』が『心残りは韓国』・・・・」なる記事を読んだ。小見出しは「三一年四月三〇日。
あくまでも儀礼的で、いわば茶番の皇室会議を経て、平成の終焉日が決まった。
 
天皇陛下が望まれてきた女性宮家創設は泡と消え、それを打ち砕いた安倍官邸に御恨み骨髄だという。
 
更に、心残りとして「韓国」の二文字を挙げていらっしゃるのだ。」
この三頁の特集記事の最後に「韓国ご訪問をご相談」の小見出しに続き、(中略)侍従職関係者は「陛下は韓国には一番行きたかったんじゃないでしょうか。それを迎えてくれるような状態だったら良かったんですけど。」(中略)麗澤大学八木秀次教授は「陛下は実際に『韓国訪問』の可能性についてお考えになっていた形跡があります。というのも、陛下よりその件で相談を受けた方に、ひとり挟むかたちですが、実際に聞いているからです。もちろんご在位中に訪問されたいという内容でした。」
 
この記事に続いて、ある官邸関係者はこんな打ち明け話をする。
 
「最近耳にしたのが、陛下が華やいだ雰囲気で皇居を去りたいお気持ちを持っていらっしゃるということ。具体的には、一般参賀のような形で国民に対しメッセージを発し、その上でパレードをしたいと考えておられるようです。その一方で官邸は粛々と外国の賓客も招かずに静かにやりたいという考えがあって、そこで宮内庁とせめぎ合いをしていると聞いています。」
 
私が驚愕したのはこの記事ではない。
一二月一四日付けで宮内庁は次の通りこの新潮の記事に抗議声明を出しているのである。
 
宮内庁は前述の記事の後半のパレード云々を取り上げ「陛下は、法案が通った非常に早い時期から、譲位の儀式の方はできるだけ簡素になさりたいとのお考えをお持ちであり、とりわけ、外国賓客の招待については、新天皇の即位の礼にお招きすることの可能性を考えられ、御譲位の儀式にお招きするお気持ちはお持ちでない、また、一般参賀については、最近のヨーロッパ王室におけるお代替わりの行事において、例外なく王宮のバルコニーで新旧の国王による国民に対する挨拶が行われていたが、陛下におかれては、そのようなことをなさるお考えのないことを度々、我々に留意するようご注意を頂いていたところであります。パレードについての言及はこれまでありませんでしたが、以上のようなことから、華やかなものをお考えとはとても考えられないことです。宮内庁としては、このような陛下のお気持ちについては、早くより,十分に承知しており、内閣官房に対しても、御譲位の行事については、外国賓客を招いたりすることなく、宮殿内において粛々と静かに行われたい旨を伝えていたところであります。冒頭引用した記事に掲載されている陛下のお気持ちやお考えは、事実に全く反するものであり、これを陛下のお気持ちであるかのように報ずることは、国民に大きな誤解を与えるもので、極めて遺憾です。ここに、正しい事実関係を明らかにし、誤解を正すとともに、抗議いたします。」と結んでいる。
 
私はこの声明を読んで衝撃をうけたのだ。パレードはどうでもよい。
韓国訪問を望んでいる云々の記事の方には抗議どころか全く触れていなのだ。とするとやはりこの韓国訪問の記事は事実なのだろうか。宮内庁は否定しないのか。
 
暗澹として年末を迎えたが、またも痛撃があった。読売新聞一二月三〇日の一面トップ記事である。
見出しは「九〇年盧泰愚氏来日 『痛惜の念』陛下意向」要約すると昭和五九年の全斗煥来日の際、昭和天皇は「両国の間に不幸な過去が存したことはまことに遺憾」と伝えた。
 
平成二年盧泰愚の来日時に当時の海部総理は「国政の最高責任者である首相が陳謝すれば十分であり、陛下が歴史問題に言及される必要はない。」としたが「過去の歴史についてきちんと気持ちを伝えたい」という『陛下の強い希望が伝わり』この表現になったと伝えている。
読売は同日の社会面でも、平成六年金泳三来日時のおことば「わがくにが朝鮮半島の人々に多大な苦難を与えた云々」一〇年の金大中来日時「わがくにが朝鮮半島の人々に大きな苦しみをもたらした時代云々」を伝えている。
さらに、陛下がサイパン島訪問時に韓国平和記念塔に拝礼されたこと、桓武天皇の生母は百済の武寧王の子孫であったことに、二回の公式の場で言及されていることに触れ、続いて「この九月の私的旅行での埼玉県の高麗神社参拝は、韓国では『退位前の和解のメッセージである』と報道されている。」と結んでいる。
 
杞憂であればよいと思っていたが、現実になるのであろうか。前回も述べたが、上皇は内閣の助言も承認も必要とせず、かなり自由にふるまえることになりそうなのである。
 
鳩山由紀夫という元首相は、政界を引退したあと一民間人としてではあるが、韓国や沖縄や南京で土下座するなど、奇矯な振る舞いをして、顰蹙をかっている。しかし現地では、彼の言動は「元首相」としてのものであり、その言動は歓迎され重く受け止められている。
 
私はこんなルーピーなど連想するわけがない。絶対にしない。
英邁な上皇陛下が韓国を訪問され、日帝三六年の強占支配に「痛惜の念」をもって謝罪され、日本人を未来永劫自虐史観の泥沼に、沈めることなどされるわけがない。朝鮮半島の近代化に血と汗と涙で貢献した数多くの先達の名誉を、踏みにじることなどされるわけがない。
私はそう信じて連夜枕を高くして安眠しているのである。(続く)