2017年06月23日(金曜日)
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拉致問題の闇を切る 第三回 「拉致認定」の不合理 荒木和博

 

 現在政府認定の拉致被害者は久米裕さん・松本京子さん・横田めぐみさん・田口八重子さん・田中実さん・地村保志さん・地村富貴恵さん・蓮池薫さん・蓮池祐木子さん・市川修一さん・増元るみ子さん・曽我ひとみさん・曽我ミヨシさん・石岡亨さん・松木薫さん・原敕晁さん・有本恵子さんの17人です。この中で最後に拉致認定されたのは松本京子さん(平成18年11月拉致認定)。以後10年間認定はなされていません。?
 拉致認定は蓮池さんら5人が帰国した後にできた「北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律」で、帰国者の支援をするために拉致被害者を定義する必要があり法的な用語となったものです。現在拉致されて帰国できていない人を取り返すための定義ではないのです。
? 政府がこのやり方を変えないのは、今新たに誰かを認定すれば「なぜ今になって認定するのか」とマスコミから聞かれたり国会で質問されるからです。そのとき「これまで分かりませんでした」とも「隠していました」とも答えられません。さらに「Aさんを認定するなら同じような状況で失踪しているBさんも認定すべきではないか」とか聞かれたら収拾がつかなくなります。だから認定できないのです。

 警察は「法と証拠に基づいてやっている」と言いますが、およそそれとはほど遠いのが拉致問題です。その象徴が拉致認定の「三要件」。これは、

(1) 北朝鮮の国家意思が推認される、
(2) 本人の意思に反している、
(3) 北朝鮮に入った証拠や証言がある、
 の三点を満たして初めて拉致として認定されるということです。

 三要件は漆間巌警察庁長官が在任当時明らかにしたものでした。しかし例えば寺越武志さんは(1)〜(3)全てを満たしており、本人が北朝鮮にいて家族にも会っているのに拉致認定されていません。逆に曽我ミヨシさんはひとみさんと一緒に失踪し、ひとみさんが拉致されたから認定されたのですが、(3)については明らかとは言えません。他の認定者についても本当にこれを満たしているのかと思えるケースがある。

 実は政府自身国会答弁の中で「三要件」を事実上否定しています。平成25年1月28日、有田芳生参議院議員が提出した質問主意書の中で、「現在政府が認定している十七名はすべてこの三条件(注・三要件と同じ)を満たしていると理解していいですか」との質問に対する政府答弁書は、「現在、政府が拉致被害者として認定している十七名については、関係機関の捜査・調査の積み上げの結果、北朝鮮による拉致行為があったという確認に基づき認定されたものである」となっています。三要件を満たしたから認定したとは言っていないのです。

 失踪者の大部分は失踪当時一般的な家出などと考えられ捜査すら行われていません。警察に届けのある失踪は年間10万件近くにもなり、その大部分はそれほど経たないうちに消息が分かりますから、警察も事件性がないと思えば捜査をしないのです。
 
 しかし、その失踪に拉致ではないかという疑いが掛けられた場合、何十年も経った事件で証拠を固めて「これは拉致だ」と明らかにすることなどほとんど不可能です。もちろん、最初から三要件に合致すると思われるケースなど皆無に近いと思います。

 しかし一方で北朝鮮に拉致されている人がいるのも事実です。ならば真相を究明するには私たち特定失踪者問題調査会がやっている、「拉致の可能性の排除出来ない失踪者」の事例を集めて、その関係性・類似性などから絞り込んで行くやり方、「帰納的アプローチ」しかありません。

 このやり方でやれば当然、集まった事例の中に拉致でないと分かる人が出てきます。先日国内での所在が確認された宮内和也さんを含め、調査会のリストではすでに60人近い失踪者が日本国内で所在確認されています。

 私たちは非公開の失踪者でも国内での所在確認をされたときはあえて発表しています。非公開ですから発表しなくても分かりません。それでも発表しているのは(もちろん個人名等を伏せてですが)、これは特定失踪者があくまで「拉致の可能性を排除できない失踪者」であり、そうでない人が入っている可能性を理解してもらうためです。しかし見つかったと聞けば「他の失踪者も国内にいるのではないか」と思う人がいるのも当然で、ある意味「拉致の可能性」と発表するのはリスクを負うことでもあります。

 しかし、誰かがそのリスクを引き受けなければ真相究明は前に進みません。政府には(これは過去の自民党政権の時が大部分ですが、細川連立政権や民主党政権時代も、そして現在の安倍政権も含め)もちろんこのリスクを引き受ける気持ちはさらさらありません。

 「拉致認定」が拉致問題の解決を妨げているという現実を、ご理解いただければ幸いです。